第七十九話:自覚
ねえ、千歳ちゃん。オレは君を護りたい。だから強くなろうと思ったんだ。オレは千歳ちゃんがいつも独りで泣いていたのを、知ってるんだ。だから、オレと一緒にいる時位、我慢せずに泣いてくれると嬉しい。
私は学校でボーッと外を見ていた。昨日、結局あれから椿に会っていない。というよりも、会うことが出来ない。我を失って、言ってはいけないことまで言ってしまった。私には会う勇気がない。
「花水木さん!」
クラスメイトが私の方を向いて、声を掛ける。耳のピアスがキラリと光っていて、可愛らしい。
「あ、うん、どうしたの?」
「白夏先輩が呼んでるよ」
白夏先輩と言えば、生徒会長のことだろう。あの人は本当にタイミングが悪い、と思う。彼女に会える気分ではないが、私は渋々席を立った。
「……どうかしましたか?」
「少し花水木さんと話したいなあと思ってね。大丈夫かな?」
「大丈夫です、けど、いきなりですね」
「ごめんねー! あ、こっちこっち!」
生徒会長は私の手を引き、生徒会室に導いた。私は完全に彼女のなすままだった。
「今日、神林君の元気が無かったの」
生徒会長は椅子に腰掛けて、口を尖らせながら言った。私はボンヤリしながら聞くしかなかった。
「前から元気の無かったことがあったけど、今日はいつもより酷かった」
「……」
「どうしても、どうしても気になって。おかしいの、私」
ああ、それを人は“恋”と呼ぶのじゃないだろうか? 椿の恋がとうとう実ったのだ。ああ、私はどうすればいい? どうすればいい? 頭が、頭がまた混乱してくる。いつから、いつから自分を抑えられなくなった? 雅と会った時は普通だった筈だ。羅水の話だって、普段と同じ様に聞いていた。やはり、やはり遊良のあの言葉だろうか。忌児である私に解放は無い、と言われたのが尾を引いているのか。
「花水木さんは神林君と仲が良いでしょ? 何か知ってるかなって思って」
「……ごめんなさい、知らない、です」
「そっか、そうだよね。自分で聞くべきよね。ごめんなさい、わざわざこんな所まで呼び出しちゃって」
生徒会長は申し訳なさそうに笑った。彼女の笑った顔はとても可愛い。さっき触れた手も小さくて綺麗だった。
「いえ、大丈夫です。あ、でももう少しここに居てもいいですか?」
「大丈夫よ! 私も一緒に居れたらいいんだけど……」
「お気になさらずに」
私はニコリと笑って彼女を送り出した。上手く笑えていたか自信は無い。ああ、怖い。怖い怖い怖い。いつ自分を見失うか、分からない。みっともない、情けない姿は見せたくない。誰にも知られたくない。弱さをさらけ出したくない。そんなこと、とっくの昔から出来ていないことは知っている。だけど、だけど。
夢を見た。椿の結婚式の夢。新郎の椿の隣に居るのは、私じゃなくて生徒会長。私は端で手を叩いて彼等を祝福している。ただ表情が上手く読み取れない。もしかしたら、私は椿に恋をしてたのかもしれない。強い椿が、ずっと昔から好きだったのかもしれない。嫌だ、そんなの嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。好きだなんて感情、要らない。必要なんかない。
しかも今頃気付くなんて、何て愚かなんだろう。




