第七十八話:極秘事項
私は椿から聞いた話に、驚きを隠せなかった。妹が、いつか自分に殺されることを恐れているなんて、考えたくもなかった。しかし忌児とその主である自分達の関係では仕方無いと、頭の何処かで思う冷静な自分もいた。
「千歳は、他に何か言っていたかい?」
「いいえ。途中からは取り乱して何を言っているか分からなくなったけれど」
「そうか、教えてくれてありがとう」
私は無理矢理笑う。私は花水木家の頂点として、椿を、花水木家の者を安心させなければならない。これは使命だ。
「辰爾さん、無理しないで下さい。千歳みたいになりますよ」
賢い妹の許婚には、全てバレていた。彼が千歳をずっと支えてくれるなら、どれだけ心強いか。しかしそれを強要するのは酷な話だ。椿には好きな女性がいる。
「はは、そうだな。気を付けるよ」
「千歳が言ってました。呪いは解かれなきゃいけない、と。どういう意味ですか?」
「……」
これにも驚いてしまう。花水木の中でも極秘事項である。それを、教えていない千歳が知っていた。彼女が自分で調べたのか、それとも誰かに教えられたのかは分からない。
「辰爾さん?」
「あ、ああ、すまない」
「……極秘事項でしたか」
「相変わらず鋭いな、お前は」
「これだけが取り柄ですから」
椿が苦笑する。そんなことないさ、と私は加えた。しかし勘が良すぎるというのも、難しいものだろうと思う。
「そうだな、いつかは教えなければならないことだ。主が呪いを解かずに死ぬと、忌児は死ねなくなる。次の主に呪いを解かれるまで、ずっと生き続けなければならない」
自分で話しておいて、酷な話だと思う。この話がわざわざ極秘にされているのは、過去一度しか経験のない出来事だからだ。しかも血塗られた記憶だ。
「……そう、ですか」
椿の表情が険しくなる。私はただ何も言わず、彼を見ているだけだ。
「ありがとうございました」
「いや、今日は千歳が迷惑を掛けたね」
「驚きましたけど、迷惑だとは思いません。仮にも俺は千歳の許婚ですよ?」
椿がニヤリと笑うのを見て、思わず笑みが零れた。ああ、椿はなんて良い青年だろう。兄としては、是非妹の婿として迎え入れたい。先程から私はそればかり思っている。
一向に話が進まない物語を読んで下さってありがとうございます。もし良かったら一番好きな登場人物を教えて貰いたいです!これからもよろしくお願いします!