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忌児  作者: 真崎麻佐
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第七十六話:吐露

 椿は生徒会室で作業をしていた。室内には椿の他に誰も居ない。静かだった。椿は作業をしながらも、最近起こった鶯朱雀襲撃のことを考えていた。あの事件はおかしい。いきなり過ぎるのだ。確かに朱雀は敵を作りそうなタイプだが、それでも今彼が狙われる理由はないように思われた。狙うなら青柳や花水木が訪問する前にすべきだ。椿が一人頭を悩ませていると、ガラリと扉が開いた。ヒョコリと顔を出したのは、生徒会長の白夏瑶子だった。

「お疲れ様! 神林君は本当に働き者ね」

「そんなこと無いッスよ。皆同じように頑張ってます」

「うん、良い人ばっかり」

ニコリと笑う瑶子の笑顔に椿は表情が弛んでしまう。とことん瑶子に弱いのだ。

「それよりどうしたの?難しい顔してたよ」

瑶子は首を傾げながら尋ねる。

「本当ですか? いや、大したことじゃないんッスけどね」

「そう? いつでも相談に乗るわよ。大切な生徒会の仲間だもの!」

瑶子はポンと胸を叩く。しかし椿は瑶子の発言に、チクリと胸が痛んだ。彼女は優しい、彼女は残酷だ。



 「あー、椿だ」

俺の許婚である千歳は棒アイスをくわえながら、一人教室の窓に腰掛けていた。足を外に出しているので、かなり危険な格好だ。しかし本人に気にする様子は無かった。

「お前……もう少し恥じらいを持てよ」

「生徒会長みたいに?」

口を尖らせながら言う千歳を見て、俺はつい溜め息をついてしまう。彼女はいつもこうなのだ。千歳は瑶子先輩のことを名前で呼ぶことは決してない。いつも“生徒会長”と呼ぶ。わざとそうしてるのだと思う。

「……椿はもう覚悟した?」

唐突な質問に首を傾げる。千歳は何も言わずに足をブラブラ揺らしている。俺達の間には沈黙が流れていた。

「どんな?」

「後悔しない、覚悟」

「……」

黙ってしまった俺を見て、千歳はニヤリとした。その顔はかなり憎たらしい。

「生徒会長に告白したら?」

「は?」

「または花水木家に関わらないか」

「おい、何言ってるんだよ」

「……鶯朱雀が刺された。これは私達にも同様の危険があることを示してる」

怪訝な顔をしながら、ああ、と小さく相槌を打つ。千歳は少し俺の様子を見ていたが、直ぐに続けた。

「後悔しない、ようにね」

「千歳、お前自身はどうなんだ?お前はいつも俺を突き放そうとするが、お前はそれで後悔しないのか?」

この質問をして、俺は直ぐに後悔した。千歳の表情が僅かに揺れたのだ。千歳は俺に背を向ける。分かっていたのに聞いてしまった。俺もこの状態にそろそろ嫌気がさしていたのだろう。

「……私は、後悔、しないよ。だっていつかはそうなるんだもん。それが今でも、同じ。同じじゃない」

途切れ途切れに話す。千歳のアイスは溶けて、下に落ちた。あ、と小さく唸る。そして窓から降りた。

「うん、同じ。椿は、生徒会長、ううん、瑶子さんと幸せになるべきなんだわ」

さっきからこちらを向くことのない千歳の表情を伺うことは出来ない。しかし彼女の肩が少し震えているように見えるのは、勘違いではないだろう。

「……突き放さないと、私は椿に依存しちゃう」

千歳はボソリと呟いた。それを俺は聞き逃すことはなかった。

「駄目なの、私、覚悟しなきゃ。皆の重荷に、後悔にならないように。私が、私がし、死んでも、誰も気にしないように、しなきゃ、だ、駄目……」

千歳の身体がどんどん小さくなって行く。頭を抱えて、蹲っているのだ。声が震える。

「辰爾さんはお前を死なせない」

「……それも、駄目。兄さんは、私の呪いを解かなきゃ駄目」

「どうしてだよ。呪いを解かれちゃ、死んじまうんだぞ」

つい語気を強めてしまう。千歳のネガティブな考えに、思わず反論したくなったのだ。

「駄目。駄目駄目!!椿は知らないのよ、忌児と花水木家当主の絆を」

千歳は興奮して我を失っているようだった。次第にはヒクッヒクッとしゃくり上げ始めた。

「わたっ、私は、上手に皆の前から、消えなきゃいけない。それを、私は、後悔しないっ。なのに、なのに、どうして……ッ」

俺は聞き逃したかった。千歳の本音を。千歳は強がりのままで良かった。彼女は確かにこう言ったのだ。


 『寂しい』と。

俺はまた千歳を傷付けた。



この話からどんどん暗くなって行きます。しかもやたら長引きます。気長に読んで頂ければ幸いです。

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