表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忌児  作者: 真崎麻佐
74/129

第七十四話:覚悟

 鶯朱雀の一件があってから、花水木家の屋敷内も騒がしくなった。誰もが、いつ襲われるか分からない、という恐怖を覚えるようになったのだ。そんな中、羅水は千歳の部屋に来ていた。

「千歳さま、どうでしたか? 灯になられた春日井さまは」

そう話し掛けられて、千歳は少し苦笑する。そういう反応が返ってくることは、羅水も始めから分かっていた。

「うん、何かやりにくかった。分かってたこと、だけどね」

羅水は返事を返さない。千歳は何か言って貰えるのを待っているようだったが、暫くして諦めたのか話し続けた。

「もしかしたら、雅は私の助けなんて必要としてないのかも、しれない。気配だって少しずつ無くなっていたし」

「春日井さまは覚悟を決めたんだと思います」

羅水は珍しく千歳の目を見ずに言った。

「覚悟?」

「ええ。灯としての、覚悟を」

「それは……鶯家の為に命を懸けるということ、ね?」

「そう、とも言えます。しかし違うと言えば少し違う」

千歳は不思議そうに首を傾げる。羅水は優しく目を細める。

「もう後戻りは出来ない、という覚悟です」

「もう後悔しないということね」

「はい。その覚悟が出来て、春日井さまは強くなった」

ふう、と千歳が溜め息をついた。目を伏せている。羅水は苦笑した。

「困ったものね、私が先を越されるなんて。その覚悟は私には無い」

「そうなんですか?」

「……うん」

面白そうに尋ねる羅水を恨めしそうに千歳は見た。羅水は相変わらず楽しんでいる。

「いつも後悔する。雅をこの世界に連れ込んだことも、椿を自由にさせてあげられないことも、松波に甘えてばかりなことも、兄さんに冷たくしてしまうことも、それと」

千歳はジッと羅水の目を見る。珍しく羅水の方がたじろいでしまう。

「羅水を早くに大人にしてしまったことも」

「千歳さま?」

羅水は目を見開いて言った。羅水にとって、思いも寄らない発言だったのだ。千歳は少し困った顔になる。羅水の表情に戸惑ったのだ。

「え、えっと、その、羅水にいつも気を遣わせて、いけないと思ってるの」

少し曖昧な表現となってしまった。しかし羅水はジッと聞いている。

「私、昔から羅水に我儘ばっかり言って来たから……だから、羅水が早くに大人になっちゃったんだと思って」

「それは違います、千歳さま」

やっと羅水がニコリと笑った。千歳は少し安堵する。羅水は千歳の側に近付いて来た。

「僕は、自ら望んで大人になりました。決して千歳さまのせいじゃありません」

「そう、なの?」

「はい。春日井さまと同じ様に決心したんです、もう二度と後悔しないと」

千歳は黙った。そして少し考えてから、羅水の方を見て怖々と言う。

「もう後悔することは、無い?」

「いいえ、ありますよ。しかしそれで終わりでは無くなりました。失敗をしたら終わりじゃない、僕はそれを良い方向にむける責任がある」

「羅水らしい」

「そうですか?」

千歳はクスリと笑った。羅水もそれにつられてニコリと笑った。

「でも、私も決めなきゃいけないわね。覚悟を」

「焦らなくてもいいですよ。千歳さまのペースで構わないでしょう?」

「そうかな」

「そうですよ」

千歳は困ったような、嬉しそうな笑みを浮かべた。羅水は珍しく微笑むと、一例して部屋から姿を消した。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ