第七話:対面
「初めまして、花水木辰爾さん?」
薬史はニコリと笑った。しかし彼の目は笑ってはいなかった。辰爾は、薬史の攻撃から自分を護る為に倒れた松波の側から一歩ずつ離れて行く。
「いや、久し振りと言った方が正しいかな」
「?」
「こうすれば分かってくれるかな?」
薬史はスッと顔を左手で触った。そして手を離した時には、違う顔になっていた。先月まで花水木で庭掃除をしていた男の顔だ。
「……最近見ないと思っていたんだ」
「辰爾さまは使用人にも優しい、という噂は本当だったんだね」
辰爾は下を向いて、フッと笑った。薬史は何気なく辰爾に近付く。辰爾はジッと薬史を見た。
「青柳には野望があるんだ。聞きたいかい?」
「私には関係ないさ」
「それは残念。実は言いたくて堪らないんだ」
今度は悪戯っぽく笑ってみせた。薬史は既に辰爾の隣にまで辿り着いていた。しかし辰爾に焦る様子など無い。
「余裕だなァ。君の護衛達は皆倒れてしまったというのに」
「私は彼等を信頼しているからね」
「……やはり辰爾さまは主の鑑だ」
薬史はいかにも面白い、というふうに言った。それから手を辰爾の首の方へ、徐々に伸ばし始めた。
「待てッ!!」
薬史が首だけ後ろに向けると、そこには千歳の姿があった。先程自身がつけた傷は彼女の身体に一つも残っていなかった。
「いい加減に嫌になるなあ。どうすれば君にトドメがさせるんだろう?」
「アンタには無理ね」
「へぇ、じゃあ誰なら出来るんだい?」
「それを教えてやる義理はない!」
千歳は花鳥に、ポケットから取り出した小瓶の中の水を掛けた。すると花鳥から煙が出始めた。薬史はそれを見て、ニヤリと笑った。
「はぁぁあっ!!」
掛け声と共に、千歳は薬史を目掛けて走った。薬史は避けるのではなく、刀でそれを受け止めようとした。
―カキンッ
そして、部屋の中に静寂をもたらした。