第六十六話:従兄弟
「ねぇ、らすいも死ぬの?」
小さな千歳さまは僕に尋ねた。予想もしていなかった質問に僕は内心焦ってしまった。どう答えれば適切か、どう答えれば彼女を傷付けないか。
「……はい、いつかは死んでしまいます」
考えても、やはり正直な回答しか出てこなかった。僕もやはりまだまだ子供だったのだ。
「へえ、でもわたしは死なないんだって。ゆら君が言ってた」
「ゆら君?」
聞いたことの無い名だった。その頃の僕はまだ修行の身で、いつも千歳さまの側に居た訳ではないので知らないことが多かった。
「うん。いとこのゆら君。この前、初めてあったの」
「……従兄弟」
千歳さまの母親の実家が仁科家だということは知っていた。彼も仁科の人間なのだろう、とその時はぼんやり考えるだけだった。
「ゆら君がね、きみは死なないんだよ、って。どおしてなのかなあ?」
その頃の千歳さまはまだ自分の呪いに気が付いていなかったのだ。いや、誰も教えなかったのだろう。しかしそれが優しさから来る気遣いではないことを、僕は知っている。
「その方はとてもユーモアのある人なんですね。千歳さまも僕達と同じ、同じように死にますよ」
「……ほんと?」
はい、とニコリと微笑んで答えると千歳さまの表情が僅かに明るくなった。そして直ぐに俯いた。
「そっか。よかった」
「何故です?人間は死ぬのを恐れる生き物ですよ」
「だってゆら君が気持ち悪いっていうんだもん」
千歳さまは俯いたまま、か細い声で答えた。僕の心がズキリと痛んだのを覚えている。例えどんなに幼い子供でも、確かに傷付いているのだ。
「それでは良かったですね。千歳さまは気持ち悪くなんてありませんよ」
「うん!」
その後、彼女がどれだけ傷付いたなんて知らない。痛みを隠すのが上手な方なのだ。後になって仁科遊良本人と出会った時の後悔は忘れないだろう。