第六話:陥落
屋敷中にザワザワと怒声が響き渡る。辰爾と松波は静かに部屋に籠っていた。
「松波……」
「どうした? 辰爾殿」
「……外に出よう」
辰爾はゆっくりと腰を上げた。しかし松波は行く手を阻む。立ち止まった辰爾はジッと松波を見つめた。
「貴方は死んではいけない。貴方が居なければ、花水木は纏まらないのだから」
「しかし……」
「辛抱して下さい」
やけに周りの音が室内に響いた。辰爾は何も言えなくなってしまった。
「頑固な子だ。大人しく通していれば、こんな怪我をすることもないのに……」
薬史はニヤリと笑いながら、地面に倒れる千歳を蹴飛ばした。千歳がウッ、と唸る。
「花水木の忌児も大した事ないな。青柳の敵じゃない」
「くっ……!!」
千歳は片腕から血を流しながら立ち上がった。そして静かに何かを呟いた。すると彼女の片腕の怪我はみるみる治っていった。
「何度見ても驚きだな。君のその力は」
「私は何度でも立ち上がれるの、悪いわね」
千歳は皮肉っぽく笑うと、花鳥を持ち直し、薬史の方へ走った。薬史は長めの刀を構え、千歳の攻撃を躱した。
「千歳ッ!!」
椿が駆け付けた。
「……今日は運がいい」
薬史の口元が妖しく歪む。椿は神林の宝である赤弓『風月』を構えた。ジリジリと二人の間が縮まった。
「椿! ここは私に任せて。兄さんの方が心配だわ! 松波一人なの!」
千歳は目だけ椿の方を見た。椿は何か言いたそうだったが、大きく頷いて辰爾の元へ向かおうとした。
―ザッ
「椿ッ!!」
一瞬の隙に、薬史の刀は花鳥から離れ、椿の背に放たれていた。椿は血を出しながら、地面に倒れた。
「やれやれ、骨の無い護衛ばかりだね」
薬史は愉しそうに溜め息をついた。そして、その後直ぐに、もう一人青柳が現われた。
「南門、突破しました!」
「そうか。あの忍もやはり甘い花水木の一員か」
千歳はキュッと唇を噛んだ。薬史は相変わらずニヤニヤと笑っている。
「悔しいかい? 忌児のお嬢さん」
「ふざ、けるなっ!!」
千歳は最早無茶と言えるような攻撃に出た。考えもなしに突っ込んだのだ。薬史は当然のようにそれを躱し、千歳の腹部に刀を突き刺した。千歳は低く唸り、立ち上がることが出来なかった。
「さて、当主の部屋に向かうとするか」
薬史は軽い足取りで、辰爾の部屋へ向かった。