第五話:開戦
私の武器は私を護る為にあるんじゃない。
兄を、花水木家の宝を護る為にあるのだ。
『花鳥』が役目はただ一つ。
「椿、いいモノ持っているな。一つくれないか?」
松波がドカドカと居間へ入って来た。休憩の時間である。松波は椿からチョコレートを一つ受け取り、嬉しそうに頬張った。
「お疲れ様」
「いやいや、まだ何もしてないよ。周りはどうだい?」
「動き無し」
ホイッとチョコレートを口に放り投げてから、椿が言った。うんうん、と椿の隣で千歳は頷いた。そうか、と松波はドカッと座った。松波は何から何まで豪快だ。
「じゃあ、私が兄さんの護衛に行って来るね」
「おぉ」
千歳は二人を残して居間を出た。
「兄さん。入ります」
返事は無い。返事を待たずに千歳は静かに中に入った。辰爾は外を見ていた。雨で視界は悪い。
「兄さん?」
「……千歳、お前は強いな」
ポツリと零す様に辰爾は呟いた。千歳は思わず訊き返してしまった。
「強い?」
「ああ。心が、強い」
「……私が?」
沈黙が流れた。辰爾はそれっきり何も話さなかった。
兄は勘違いをしている。大きな勘違い。都合のいい勘違い。私は強くなんてない。強くありたいけれど、それに追い付く心は持ち合わせていなかった。
千歳達4人は常に鈴を身に着けている。これは特殊な鈴で、誰かが意図を持って鳴らすと全員に伝わる仕組みになっている。そしてその鈴がとうとう鳴ってしまった。羅水からである。
「敵は南門から侵入!!」
屋敷中に情報が伝達される。男は刀を、女は薙刀を持って戦闘に備える。傍から見れば時代劇の様で異様な風景だ。しかしこれが花水木の常識だった。
紺の服を纏った人々が屋敷を囲む。青柳だ。彼等の腕に柳の刺青が彫ってある。そして一人、服に柳の家紋を付けた男が一歩前に出た。
「お久し振りだね、花水木千歳サン?」
「……」
「おっと、そんな恐い顔で睨まないでよ。可愛い顔が台無しだよ」
青柳の次期長の青柳薬史が軽口を叩く。千歳は花鳥を構えた。
「武器をしまって。僕達は殺し合いをしに来た訳じゃないんだから」
ニヤッと薬史の口元が緩む。途端に背筋が凍る様な感覚に囚われた。
「花水木辰爾に会いたい」
「主はお前に用は無い。話なら私が聞く」
「……呪われた娘が何を言う」
薬史の鋭い眼が千歳を捕らえた。後退りしそうな身体を押さえる。
闘いは始まったばかりだ。