表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忌児  作者: 真崎麻佐
49/129

第四十九話:購買

 雲住家から花鳥と風月が返って来た。それを受け取って見てみると、前とは違って刃がとても美しくなっていた。椿も張りが違うと感心していた。普段より竹刀を持つことが多くなったように思う。道場にいる時間が長くなったように思う。それ程、花水木と鶯の接触は危険なのか、と身構えてしまう。それに雅のことも気になる。所詮自分は、羅水から聞いた情報しか持っていないのだ。羅水曰く、青柳の使者が近々鶯を訪ねるらしい。そのため、鶯自体も動き出した。全てが変化しだしているのだ。



 千歳は珍しく学校の購買に来ていた。いつもは持って来るお弁当を今日は持っていなかったのだ。幾つも並んでいるパンを二つ取って、会計に渡した。お釣を受け取って教室に戻ろうとした時、名を呼ぶ声に気が付いた。

「花水木ちゃん!」

妙な呼び方に顔をしかめて振り返ると、そこには勝也が居た。

「……オーサカ君?」

「覚えててくれたんだ! 嬉しいな」

ニコニコと近付いて来る勝也から、千歳は思わず後退りしてしまう。勝也はそれを気にする風は無く、話を続けた。

「最近、神林の野郎があんまり生徒会に顔を出さなくてさぁ。花水木ちゃん、何か知らない?」

「さぁ? 分かんない」

本当は知っている。椿も千歳同様、稽古に必死なのだ。前回惨敗したという結果があるために。

「そっかそっか。アイツに生徒会以外に大事なモンがあるなんて意外でさぁ」

「そう?」

「うん。だって生徒会にはあの人がいるし」

「そう、よね」

すると勝也は少し意外そうな顔で千歳を見た。

「花水木ちゃん、もしかして君、神林のことが好き?」

「……はあ!?」

千歳は思わずとんでもない声を出してしまう。勝也はビクリとした。

「何でそうなるのよ!」

「いや、な、何となく」

「気持ち悪いこと言わないで」

余りにも千歳が怒るので、勝也はあたふたしていた。千歳はその様子を見て、ハァと溜め息をついた。

「……椿は生徒会、楽しそう?」

「え? うん、まぁね」

「それなら良いのよ」

じゃあ、と手を挙げて千歳はその場を去ろうとした。その時、勝也が声を掛けた。

「花水木ちゃん!」

「変な呼び方しないでよね」

そう言いながら千歳が振り返ると、勝也が必死な形相をしていた。千歳はギョッとしてしまう。

「神林は瑶子先輩と同じ位、君のことが大切だと思うよ!」

「……は?」

「だから、君も簡単に神林を突放さない方がいい」

勝也の発言に千歳はポカンとなってしまう。勝也は周りに遠慮無しに続けた。

「花水木ちゃんと話して思ったんだ。何ていうか、君は損しそうな気がする。だからッ」

「ありがとう」

千歳は寂しく微笑んだ。勝也は言葉を続けることが出来なかった。開けた口を静かに閉じる。

「オーサカ君、思ったよりいい人ね」

「……逢坂だって」

勝也も少し苦々しく笑う。千歳は持っているパンを一つ、勝也の手に乗せる。

「コレ、あげるよ」

またね、と手を振って千歳はゆっくりと歩き出した。勝也は、次は呼び止めることはしなかった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ