第四十四話:手紙
青柳薬史は一人、青柳家の蔵に居た。蔵の中は薄暗く、夏場でもひんやりとしている。山のように積まれているのは、青柳が長い年月をかけて手に入れた宝物だ。刀や鏡、矛が在る。薬史は蔵を漁り、一つの箱を見付けた。蓋を開けると、中には碧く輝く石の付いた剣が入っていた。薬史はそれを取り出して、ニヤリと笑った。
「現在、青柳について調査を続けています」
久々の羅水の報告は青柳の話から始まった。雅暗殺計画の件から、青柳の目的を知る必要が生まれた。そのために古堤が動いている。
「何か分かったことはある?」
「前に青柳薬史は使用人に成り済まし、花水木に潜入しました。あれは変装ではありません、新たな禁忌の力です」
「私は見ていないけれど、兄さんなら分かるかもしれないわね」
羅水は小さく頷く。そして何か思い出したように、懐を探る。取り出したのは一枚の手紙だった。
「千歳さま、春日井さまからのお手紙を預かって来ました」
「雅から?」
「はい。夜中にひっそりといらっしゃいましたよ」
「すっかり“灯”ね」
千歳は羅水から手紙を受け取り、それを見ながらフフッと笑った。そして丁寧に手紙を開いた。それは綺麗な文字で書かれていた。
「よかった。鶯の人達は雅に良くしてくれてるみたい」
「いいお顔をされてましたよ」
「そう。私も頑張らないと……」
そう言うと、千歳はスクッと立ち上がった。
「千歳さま、何処へ?」
「え? 道場よ」
「よいことで」
クスリと笑いながら、羅水はその場を去った。千歳は少し照れた後、机の隣にあった竹刀を取って部屋を出た。
次から鶯編スタートです。お楽しみに!