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忌児  作者: 真崎麻佐
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第四十一話:外出

 兄は滅多に屋敷の外に出ることはない。身体が弱いという理由もあるが、何よりも母親が許さなかった。だから今日のように、兄が外出しているのは珍しい。

「兄さん、本当にそっちで合ってるの?」

地図を広げて先を歩く兄に問い掛ける。兄は所謂“箱入り息子”だ。地図を正確に読めるとは思わない。兄には常に道を案内してくれる人がついているのだ。

「大丈夫だよ」

振り返る余裕の無いのが伺える。私はますます不安になった。今日は母親が居らず、兄は思い切って外出をすることを決めた。危険だと周りの者は止めたが、今日の兄は頑固だった。そこで、私をお供に、という妥協案が採られたのだ。

「椿や松波も呼べば良かったな」

「椿は生徒会の仕事で忙しいんだろう? 無理はさせられないさ」

「私一人で兄さんのお供は荷が重いわ」

ハハッと兄が面白そうに笑った。私は兄が苦手だった。とても苦手だった。しかし何故だろう、最近その気持ちが緩和された気がする。兄自身も次第に明るくなったように思う。

「でもいきなり環和(かんな)ちゃんに会いたいだなんて……」

「そうそう会うことが出来ないだろう? 折角のいい機会じゃないか」

雲住環和(くもずみかんな)は私達の古くからの友人だ。そして花水木家の武器を作る、雲住家の当主の娘でもある。私の『花鳥』や椿の『風月』は雲住家によって造られた。

「最近は青柳も頻繁に動いているしね。お世話になることが多々あると思って、挨拶だよ」

兄の花水木家の次期当主の顔に、思わず驚いてしまう。普段の弱々しい感じがしない。感嘆の声を洩らしそうになるのを、私は何故か必死に抑えた。



 「いらっしゃい! よく来てくれたわね」

雲住の屋敷は工房のようだ。あちこちから物を造る音がする。環和は明るく二人を出迎えた。二人はなされるままに環和の後に続いた。

「はい、どーぞ!」

環和に出された冷たい麦茶を飲みながら、三人は雑談を始めた。環和は辰爾と同い年の為、話が合う。千歳はいつもよりよく話す兄を何度見ても意外に思っていた。

「辰爾君、そういえばお父さんが話したいって言ってたよ」

「私もそう思ってたんだ」

「じゃあ案内させるわ」

そして千歳と環和の二人が居間に残った。少しの間、沈黙が流れる。それを急に破ったのは環和だった。

「千歳ちゃん、千歳ちゃん! 辰爾君に悪い虫は付いてない?」

「悪い虫?」

「そう。辰爾君を狙うお姉様とか」

「……環和ちゃん」

「何よ?」

「まだ兄さん、狙ってたの?」

「狙うなんて失礼な言い方しないでくれる?ラブよ、ラブ!」

千歳は環和の発言にガクリとなる。昔から彼女はこうなのだ。真っ直ぐで心地良い。千歳は本気かどうか、図りかねているが環和は辰爾が好きらしい。しかし千歳はどうもそれを応援出来なかった。自由で明るい環和を花水木家のいざこざに巻き込ませたく無かったからだ。

「当分いないと思うよ。母さんもお見合いさせる気は無いみたいだし……」

「良かったー! じゃあアタックしてこよっと」

環和は鼻歌を鳴らしながら、父親と辰爾の居る部屋に向かった。一人残された千歳はその様子を見て、呆れた溜め息をついた。



 「兄さん、今日は楽しかった?」

雲住家からの帰り道、千歳は柄にもなく兄に尋ねてみた。

「勿論」

辰爾の声は何処か嬉しそうだった。千歳は奇妙に思いながらも、兄の先をさっさと進んで行った。

「……千歳と久し振りにゆっくり出来たからかな」

兄が小さく呟いた言葉に妹は気付くことは無かった。




環和はこれから主要人物となって行きます。次は千歳と椿の物語、椿の親が登場します!

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