第三十三話:変化
雅と草人の二人は、授業中だというのに屋上に来ていた。二人の周りの空気はピリピリと緊張が漂う。先に口を開いたのは雅だった。
「……私を暗殺するつもりだって、聞いたわ」
「あぁ」
「もう私は青柳とも鶯とも何の関わりも無い筈だけど?」
「そうだね」
「じゃあどうして」
草人がユックリと雅から視線を逸らす。手摺に腕を置き、遠くを見た。
「君は鶯の生き残りを知っている。これが花水木にバレると不味い」
「……千歳と仲良くなったのがいけないということ?」
「そういうことになるね」
クスリと草人が笑う。雅の表情は引きつった。
「私が鶯家と会ったのは、まだ十歳の頃よ。花水木が喜ぶような情報を得ているとは思えない」
「青柳家は慎重派なんだ」
「……青柳君、変わったわね」
草人はきょとんと、不思議そうな顔をする。そんな彼を見て、雅は溜め息を混じらせる。
「まぁいいわ。で? どうやって私を殺すの?」
「今すぐ殺してもいいんだけど……邪魔が入ったから止めておくよ」
草人はチラッと屋上の入口を見た。すると入口から満湖が入って来た。
「花水木は冒険派だね」
笑みを零しながら言う敵を、満湖は静かに睨んだ。一歩ずつ丁寧に、雅に近付いて行く。
「古堤まで表に出すなんて、忌児さまは考えることが違う」
「いみ、ご?」
「これ以上知ると、花水木からも生命を狙われてしまうね」
「……春日井さま、教室に戻りましょう」
満湖は屋上の出入り口に向かうように促す。しかし目は、しっかりと草人を見ている。
「どうなることやら」
フッと鼻で笑うと、次の瞬間には草人の姿は無かった。