第三十二話:再会
雅の近くには、珍しく満湖の姿がなかった。千歳は雅の登場に驚きが隠せなかったが、冷静になろうと努めた。
「雅、どうしたの?」
少し声が震えた。雅は小さく笑って、言った。
「青柳君に会いに来たの」
「あ、おやなぎに?」
「うん」
千歳の表情が一気に固くなる。それに対して雅の表情は穏やかだ。
「千歳、呼んでくれる?」
「ねぇ雅、私に隠してることあるでしょ?教えて」
千歳の声に明らかな焦りが混じる。
「雅!」
「千歳、大丈夫だから。青柳君を呼んでくれない?」
「嫌だ。そんなの、嫌!」
ブンブンと千歳は俯いて首を振る。諦めたように、雅は自ら教室へ入る。千歳は雅の腕を掴んだが、上手く躱された。
「雅ッ!」
千歳の声は雅に届いてはいなかった。雅は後ろを気にせず、どんどんと教室の中を進んだ。そして草人の机に着くと、ニコリと笑った。
「お久し振り、青柳君」
草人もクスッと笑う。
「髪、切ったんだね。でも短い方がよく似合う」
「相変わらず女の子の扱いが上手いんだから」
「それはどうも」
後に着いた千歳は二人の会話を聞いても、彼らの関係性が分からなかった。二人はお互い、旧友に会ったかのように話している。
「みや、び」
「青柳君、私に話があるんでしょ?」
千歳の呼び掛けを、雅はまるで聞こえないかのように振り切った。千歳はどうすることも出来ない。
「あるよ。君の生命にも関わる、大切な話が」
草人の言葉に、千歳の肩がビクリと反応する。雅はただにこやかに微笑んでいるだけだ。
「雅、離れて、草人から離れて」
「千歳、二人にさせて」
軽く雅が制する。千歳は口をパクパクさせるも、何も言うことは出来なかった。ただ二人が教室を出て行くのを、黙って見ているだけだった。