第三十一話:質問
「私達、親友よね」
雅のこの言葉に、私は直ぐに「うん」と答えることは出来なかった。親友になりたい。けれど、なれない。なってはいけないと、自分に言い聞かせて来たからだ。
呪われた自分、いつ命を落とすか分からない。
私は雅と親友になって、彼女を置いていくのは嫌だった。悲しませるのは嫌だ。
ずっと下を向いて黙っている私を見て、雅はとても悲しそうな顔をしていたと思う。それから私達の仲は気まずくなった。
教室はいつものようにざわついていた。教室に入って来た千歳は一目散に草人の机へ向かった。草人は数人の女の子と楽しそうに会話をしている。
「青柳君、向こうで呼ばれてるよ」
千歳は廊下を指差す。周りの女の子達は残念そうな顔をしたが、草人は訳ありげにニヤリと笑った。
「ありがとう」
ニコリと笑って、草人は廊下へ出た。何気ない様子を装って、千歳も廊下へ出た。廊下では壁にもたれかかって、ニヤニヤと笑っていた。
「嘘までついて、そんなに俺が女の子と話してるのが嫌だった?」
「馬鹿じゃないの? 私はただ聞きたいことがあるだけ」
「聞きたいこと?」
ほぅ、と草人は顎に手を当てる。千歳は小さく息を吸う。
「あなたは春日井雅と顔見知りよね?」
草人の表情の変化を探そうと、千歳はジッと目を凝らす。しかし特に変わった所は無かった。
「……どうしてそう、思うんだい?」
「いいから答えて」
草人は千歳の強い調子に肩を竦める。千歳は何も言わずに、ただ草人を見ている。それ以外は出来ないかのようだ。
「……知ってたよ。前に一度、会ったことがある」
「どこで?」
「見返りは? これじゃあ、俺の損ばかりだ」
千歳は言葉に詰まった。そして少し考える。
「何が欲しいの?」
「……花水木千歳」
クスリという笑いを含んで、草人は言った。千歳の顔が厳しくなる。
「冗談なしよ」
「本気なんだけどなァ」
「……研究材料にでもしたい?」
「可愛くないね」
草人は苦笑いをすると、振り返って教室の中に戻って行った。千歳はそれを追い掛けようとしたが、それは阻まれた。何故なら、そこに雅が来たからだ。