第二十九話:確信
青柳草人は何故動かないのか。その理由を椿はハッキリと握っていた。自らで調べた中で顕になったのだ。しかし椿はそれを千歳に言おうと思わなかった。何故なら、それが千歳本人に関わるものだったからだ。
「草人、いつになったら動くつもりなのかしら」
千歳は独り言のように椿に言う。しかし椿は返事をしない。千歳は少しむくれる。
「何か知ってるんでしょ? 教えてくれたっていいじゃない」
「たまには自分で探せよ」
「……そう、だけど」
千歳は言い淀む。確かに自分は周りに甘え過ぎだということを自覚していたからだ。
「じゃ、俺はここで」
椿は手をヒラヒラさせて、その場を去って行った。教室には千歳だけが残された。
満湖は常に雅の近くにいた。そして友達になったかのように、上手く振る舞った。
「水川さん、無理に付き合ってくれなくてもいいよ」
雅は毎度、そのように言った。
「お役目ですから」
その度に、満湖はそう言い放った。しかし満湖は、この雅の様子はどうもおかしいと思った。満湖に雅から離れて欲しいと言われているように感じた。
「千歳さまが心配されます。だから近くにいるのです」
「千歳って何者?」
雅は面白そうに少し笑った。満湖はそれを無表情に見ていた。
「私は春日井雅は千歳さまに隠し事をしていると思う」
満湖は告げ口するように椿に伝えた。椿は驚くことなく、ただ頷いた。
「……もしかして知ってました?」
「自分で調べた時に、な」
「随分と内容の濃い調査だわ。古堤でも知らなかったのに」
「推測するのが得意なだけさ、昔からな」
へぇ、とだけ満湖は言った。椿は大したことではないかのように振る舞う。それを満湖はただ見ている。
「千歳さまに言わないのは、傷付けたくないから?」
「……」
「そういう甘さがなければ、神林さまは最高ね」
そして満湖は更に続けた。
「羅水さまには報告しておくわ。……でも、千歳さまに伝わることは無いかもしれないわね」
椿はフンと鼻を鳴らした。満湖はやれやれと溜め息を漏らす。