第二十二話:厭味
千歳と椿は二人、花水木家の小さな和室に居た。向かい合って座っているのに、お互い目を合わせようともしない。出されたお茶にも手をつけない。
「誰に聞いたのよ。雅のこと」
「誰だっていいだろ」
「また兄さん?」
「違う」
「じゃあ羅水?」
「あの馬鹿が教えてくれるわけ、ないだろ」
千歳は少しムッとした。次は声を荒げて言う。
「一体、誰に聞いたのよ!」
「……満湖」
その名を聞いた途端、千歳は盛大な溜め息をついた。椿もフンと鼻を鳴らす。
「意外と口が軽いのね、あの子」
「違うぜ? 俺達が許婚同士だから、隠し事なんてないって思ってるんだ」
「……それって厭味?」
「厭味」
再び溜め息をつく。椿は今度はジッと千歳を見る。しかし千歳はそれから目を背けた。
「どうして今日は大丈夫なのよ?」
「草人には動けない理由があるんだよ」
「どういうこと?」
椿はチラリと千歳を見て、直ぐに目線を逸らせた。千歳は再びムッとする。
「何よ」
「教えない。とにかく、安全なのは確かだ」
「もったいぶらないで教えてよ!」
「お前も言わなかっただろ」
「……ガキ」
千歳は小声で文句を言った。椿は聞こえない振りをする。そしてスクッと立ち上がった。
「俺、帰るから」
「どうぞご勝手に!」
ケッと悪態をしっかりついてから、椿は部屋を出て行った。千歳は負けじと、フンと鼻を鳴らした。
「椿」
椿が振り返ると、そこには辰爾がいた。椿は意外そうな顔をする。
「また情報くれるんスか?」
「いいや、違うよ」
辰爾は小さく首を振る。椿は首を傾げた。
「椿を傷付けるのも、千歳を傷付けるのも、全て私の弱さのせいだ」
辰爾は何処を見るでもなく、ただ宙を見て、言った。逆に椿は辰爾の方を真っ直ぐ見る。
「……そんなこと言わないで下さいよ」
「椿」
「俺も、千歳も、松波も、羅水だって、そんなこと少しも思っていないんだ」
椿の眼が更に強くなる。辰爾は少しビックリした表情で椿の方を見た。
「だから、もう二度と言わないで下さい。誰も後悔したくない」
「……すまない」
「俺、帰ります。お邪魔しました」
辰爾は黙って、椿の後ろ姿を見送った。辰爾の表情には、いつにも増して、自責の念が窺われる。
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