第二十一話:告白
「で? どうしたの?」
無邪気な顔で尋ねられ、私は心の中で葛藤した。このまま雅に何も告げずに彼女を護ることだって出来るかもしれない。何も知らない方が本当は幸せなのかもしれない。しかし告げなければ、多分命の保証はない。私に選択肢は一つしかないのだ。
「うん、あのね、笑ってもいいけど真剣な話だからね」
「……分かった」
雅は慎重に頷いた。私もつられて頷く。
「雅のこと、良く思っていない人がいるの」
私がそう言った途端、雅の表情が強張った。普段から滅多なことでは動揺しない雅なのに、だ。
「だから、その……」
雅の表情に、分かっていながらも動揺してしまう。言葉が続かない。雅は黙って俯いている。
「え、と……」
私が焦り、最良の言葉を探していた時だった。
「だから俺達は君を護らなきゃならない」
私達の後ろで発された声は、椿のものだった。私は目を大きくして椿を見た。椿は飄々としている。
「つ、ばき?」
「君の暗殺計画を知った俺達は、もう君を放って置く訳にはいかないんだ」
「暗殺、計画? 私の? どうして……」
「君の両親」
そう言われた瞬間、雅の顔色が変わった。一瞬にして青くなる。椿は思った通りだ、と冷静だった。
「君の両親が関係あるんだと思う」
「……」
「何か思い当たることは?」
「有り過ぎて困るわ」
雅が苦笑する。その時、昨日の羅水の報告を思い出した。雅の両親に謎が多い、と確かに言っていたのだ。しかし何故それを椿が知っているのかが分からない。
「君には聞かなきゃいけないことが沢山あるみたいだね。今日はもう遅いから、明日にしよう」
「でも殺し屋は?」
“殺し屋”という単語に反応して、椿は噴き出しそうな衝動を抑えた。しかし笑いを押し留めて、再び体勢を整え、言う。
「今日は大丈夫。だから安心していていいよ」
ついでに、ニコリと笑う。これは椿の得意技だ。相手を本当に安心させてしまう。
「分かった、今日は帰るわ」
少し落ち着いた雅はペコリと頭を下げて、帰ろうとした。
「待って! 雅、一緒に帰ろう!」
くるりと振り返った雅は、何処か不安げな表情をしている。しかし弱々しく微笑んだ。
「ごめんね、ちょっと一人になりたいんだ」
そして一人で帰って行った。私には雅を追いかける勇気は無かった。