第十八話:裏庭
私と雅は、学校の裏庭で出会った。クラスからどうしても浮いていた私は、いつも一人裏庭でお弁当を食べていた。そんなある日、雅がやって来たのだ。彼女は両親を早くに亡くし、奨学金で学校に通う苦学生だった。初め、私は彼女が裏庭に来るのを嫌がった。一人になりたかったからだ。しかし、少しずつ話すようになって友達になって行った。
椿に問い質されて、私は渋々青柳草人のことを話した。椿は始め顔を歪めたが、次第にその眼は強くなり、何も言わずに教室の中に入って行った。私も教室に行くと、草人がニコニコと私に向って手を振っていた。私はそれを軽く無視し、席に着いた。気になるのは草人ではない、雅なのだ。兄を護るのとは違い、彼女を護るのは難しい。雅は何も知らない上に、彼女に関する情報が全く無いのだ。私は違うクラスの雅を、どう護るか思考を巡らしていた。とにかく、草人に自由な行動をさせてはいけない。
千歳が雅の教室に着くと、彼女は前のドアから中を覗いた。授業の間休みのため、教室内はざわついている。千歳は雅の位置を確認すると、その場を去ろうとした。その時、草人とぶつかりそうになる。千歳は実に嫌そうな顔をした。
「ストーカー?」
「人聞きの悪い。君の後をついて行っただけだよ」
ニコリと笑う草人を横目に、千歳は内心ヒヤリとした。草人の気配に全く気付かなかったのだ。羅水程ではないが、人の気配をある程度察知することが出来ると思っていたのに、だ。
「そこ、邪魔」
「悪いね」
「……アンタの好きにはさせないわよ」
千歳はポツリと本音を零した。するとそれを聞き取った草人はニヤリとする。
「楽しみだね」
そして千歳とは反対方向へゆっくり歩いて行った。