第十六話:計画
草人が手を突っ込んだポケットから取り出したのは、二つに折り曲げられた紙切れだった。草人はそれを千歳に突き出した。
「……」
「受け取って。俺がここに来た理由はこれさ」
差し出された紙を渋々受け取った千歳は、それをユックリと開いた。そして目を見開く。
「本気?」
「ああ」
「ここは学校なのよ?」
「そうだね」
草人は楽しそうに言った。千歳は黙って、ジッと紙を睨んだ。
「……学校で暗殺なんて、どこの馬鹿が頼んだのよ。平和な人間しか居ないこの場所で……」
紙にはある人物の名が書かれていた。千歳にはそれが何を表しているのか、直ぐに分かった。青柳は時に暗殺業も請け負っているのだ。
「ねぇ、どうして私に?」
「君には伝えておく必要があると思ってね」
「あなたは何を企んでいるの?」
「何も?」
草人は馬鹿にしたような態度をとる。そして、そのまま屋上の入口へ向かった。
「じゃあまた、教室で。花水木サン?」
千歳は薬史にそっくりな物言いをする草人を睨みながら、彼を見送った。
家に戻ると直ぐに羅水を呼び付けた。こういう時に役に立つのは古堤の力だ。
「羅水、いつも突然で悪いわね」
羅水は私の机の隣に立っていた。私はベッドの上に座った。
「どうかしたのですか、千歳さま」
「青柳草人を知ってる?」
「はい。現当主の次男で、ちょうど千歳さまと同い年の筈」
「そう。今日、草人が私の学校に転入して来たわ。しかも同じクラス」
溜め息交じりに言えば、僅かに羅水の表情が歪んだ。千歳はそれを横目で見ながらも、話を続けた。
「暗殺を頼まれたらしいの。それをご苦労様なことに、わざわざ私に伝えに来たのよ」
「狙われているのは?」
千歳は天井を仰ぎ見た。その後も、キョロキョロと色々な所を見た。そして大きく深呼吸して心を落ち着かせる。
「……春日井雅」
「分かりました。調べてみましょう」
「助かるわ」
羅水は一礼して、姿を消した。千歳はベッドから下りて、真っ暗な外を睨んだ。