第十四話:約束
今回は椿の独白となっています。
「私のこと、怖くないの?」
当時九つだった千歳が、初めて会った俺に発した言葉は、多分一生忘れられない。忘れることはないだろう。あの時の俺の態度は彼女を傷付けてはいなかっただろうか?それがとても気がかりだ。
学校の生徒会室は、俺の第三の家になっている。三つの内の一つは自分の帰る家、もう一つは花水木家である。今の生徒会室の主は白夏瑶子先輩。彼女は生徒会長だ。瑶子先輩は派手では無いけれど、どうしてか人目を引いてしまう、不思議な存在感を持つ。俺は初めて会った時から、きっと瑶子先輩に惹かれていたのだろう。
「神林君。ちょっとここ、任せてもいい?」
「いいッスよ」
「ありがとう」
瑶子先輩と交わす言葉の一言一言が大切で、こんな自分に違和感を感じながらも、いつの間にか生徒会に入っていた。
「神林君はモテるものね」
彼女の何気ない一言に、情けなくも傷付いたりした。それ程、彼女のことが好きなのかもしれない。しかしそれを強く否定をする気もないし、そう簡単に認めるつもりもない。
たとえ瑶子先輩のことが好きだとしても、俺には約束がある。守らなければならない、約束。自分が怖くないかと聞いた、あの幼い少女との約束が。彼女はいつの間にかその約束が果たされなくてもいいと、そう思うようになった。大人になるにつれて、未来を諦めるにつれて。口に出して言うことは決して無いけれど、俺には何となく分かった。だから、俺が約束を破る訳にはいかないんだ、そう強く心に思うようになった。
千歳が少しでも、幸せになれるように……。