表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忌児  作者: 真崎麻佐
128/129

第百二十八話:代


 ザワザワと風が吹く。満湖はそれを身体で感じながら、季節が変わるのを知った。風が肌に冷たく当たるので、満湖は急ぎ足で道場に向かった。もう、すぐそこに秋が来ている。

「遅れてすみません、千歳さま」

道場には一足先に千歳が到着していた。長めの髪を一つに括っている。胴着もなかなか様になっていた。

「ううん、さっき着いたばっかりよ」

ニコリと笑う千歳の顔を見て、変わったな、と満湖は正直に思う。そして、変わりつつあるのだと訂正した。

「もうすぐ学校が始まりますね」

「うん。それにしてもこの夏は本当に何もなかったわね。それまでに色々有り過ぎたから」

今年の夏はそれ以前に比べて、大変平穏な日々であった。青柳も動かず、鶯も大した行動を起こさなかった。その静けさが逆に不審だと考える者もいた。

「学生らしい夏休みをお過ごしになれば良かったのに。私と稽古ばかりして、全然遊びに行ってないじゃないですか」

「私は忌児なんだから。家でやることがたくさんあるのよ」

「こんな時にだけ“忌児”だなんて!」

ふふ、と千歳は嫌な笑いをして満湖に背を向けた。二人の仲も少しずつ良くなって来ているのだ。満湖は不服そうに稽古の準備をし始めた。

「満湖、私は強くなってるかな?」

千歳は満湖の顔を見ずに尋ねた。満湖の方は少し千歳を見やったが、直ぐに顔を背けた。

「千歳さまは筋がいいから。それに先代に鍛えられただけあります。私が教えられることなんて、そんなにないのですからね」

「先生、本当は私に暗殺の仕方を教えたかったのよ。だけど余りに私がセンスがなくて、それが出来なかったの」

満湖はジッと千歳を見た。千歳は優しい目付きでニコリと微笑む。

「……代わりに私に教えてくれ、ということですか?」

「満湖は物分かりが良くていいわね」

千歳が楽しそうに言ったのに対して、満湖の表情は暗くなった。僅かに不安を抱えた表情だった。千歳はそれに気付いていない振りをしている。

「千歳さまは、その力を何に使うつもりなのですか?」

「勿論、花水木のために。それが忌児の存在理由、でしょ?」

「決意ですか? それとも諦めているんですか?」

「決意、よ」

それっきり満湖は黙ってしまった。満湖には千歳が何をしようとしているのか、分かるような気がした。しかしそれを羅水に伝えるべきなのか判断出来ない。知らない振りをするべきなのか分からない。



花水木の忌児は、独りで争いに蹴りを付けるつもりなのだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ