第百十一話:素質
手違いで小説削除をしてしまったために書き直しました。大筋は変わっておりませんが、細かい部分まで前回と同じにすることは出来ませんでした。ご了承ください。
草人は縁側に座り、先程兄から譲り受けた刀、焼尽に目を奪われていた。色々な角度から見てみる。光を受ける度に、嵌め込まれた碧い石が綺麗に輝いて、その姿は本当に美しい。研ぎ澄まされた刃、精密な装飾、どれをとっても草人にはこれが人間を殺すための道具には見えなかった。
「あれ? 草さんが刀を持ってる」
後ろから声を掛けられて、草人はハッと振り替えると、そこには誉杉が居た。誉杉は凩の部下に当たるが、年が草人に近いため、二人は何となく仲が良かった。誉杉は草人の隣にゆっくりと腰を下した。この場所から庭がよく見える。青柳の屋敷の庭は背の高い木々が多く、華やかさはないものの壮大さがある。
「……ビックリするじゃないか」
ボソッとそう呟くと、誉杉は頭を掻きながら、ごめんごめん、と謝った。戦闘経験のほとんど無い草人は人の気配を感じることが出来ないのだ。
「草さん、それ、焼尽じゃないかい?」
「有名なのか?」
「ああ、勿論さ! へえ、草さんが持つことになったんだね!」
有名だと知らされた焼尽に改めて目を向ける。刀に興味の無い草人なのに、無意識に手にしてしまう魅力がある。
「兄貴がくれたんだ」
「良かったね!」
ニコニコと笑顔の誉杉を見て、草人はハァと溜め息を吐いた。
「……お前は本当に気楽だな」
すると誉杉は面白そうにケラケラと笑った。草人はそれを不思議そうな目で見ている。
「気楽なのは草さんだよ! だってまだ人に手を掛けたこと、ないんだろう?」
誉杉はまだ笑っている。楽しそうに、ではなく、嘲笑しそうに。
「草さん、そいつを持てば、草さんの世界は変わっちまうよ」
「……」
誉杉にそう言われて、草人は焼尽を恐ろしく感じ、同時に早く使ってみたいという衝動に駆られた。ギュッと刀を握る。
「草さん、俺は草さんに人殺しになれとは言わないよ」
草人はゆっくり誉杉に目を向けた。誉杉もジッと草人を見ている。そして次の言葉で草人は目が覚めた。
「だけど、草さんにその素質はあると思うよ」
そうだ、俺は青柳の最終兵器なんだ。