第十一話:傷心
気付いてる。私と椿は違う。
知っている。私と羅水は違う。
分かってる。私と松波は違う。
それなのに、どうして、私は彼等を束縛してしまうんだろう。
椿が生徒会長のことを好きだということは、一目見た時から気付いていた。それが理由で、生徒会に入ったってことも。私と椿は許婚で、勿論それは学校では知れていない。どちらにしろ、名目上だ。
「千歳さま」
私が机に片肘をついて、ボーッとしていると、いつの間にか背後に羅水が居た。私はそれをチラリと見て、何も言わずに元の姿勢に戻った。
「千歳さま、下に神林さんが来てますよ」
「……」
「僕、こういうことに使われるの、嫌いなんです。しかも椿に」
羅水が“椿”と呼ぶのは珍しい。相当怒っているのだろう。
「悪いのは私なのよ」
「千歳さま、会うのですか、会わないのですか」
「……会いたくない」
いつも通り話したつもりなのに、出て来た声はとても弱々しくなってしまった。羅水は軽く会釈して、次の瞬間にはもう姿は無かった。私は机の上に突っ伏して、ただひたすら自己嫌悪に陥るしかなかった。
花水木の門は大きい。割と背がある方の椿も、そこに立つと小さく見えた。椿は門にもたれかかり、ジッと道路を見ていた。
「千歳さまは会いたくないそうだ。さっさと帰れ」
中から出て来た羅水は、シッシッと犬にやるような仕草をする。椿は少しムッとした。
「じゃあ、いい。俺が中に入る」
「バーカ。しつこい男は嫌われるぞ」
「お前よか、モテる」
「言ってろ」
低レベルな争いの後、ゴホンと羅水が咳をした。椿も不満そうに黙る。
「とにかく、今日は駄目だ。青柳との戦からまだ日が浅い。あの人は、身体には傷はないものの、心には大きな傷を追っていらっしゃるのだから」
「……」
羅水はそう言うと、静かに門の戸を閉めた。椿はそれを止めることなく、自分の家の方へ歩き出した。