第百話:一瞬
よく考える。
暗い、暗い、暗い闇の中で生きている方がどれだけ気が楽だろう。
誰にも迷惑は掛けない。
誰も傷付けない。
大切な人なんて誰もいない。
あぁ、幸せだ。
でも分かってる。
それは幸せになることから逃げているということを。
それは私の甘えた考えだということを。
「兄さん」
「何だい? 千歳が私の部屋にやって来るなんて珍しいね」
「うん、ちょっとお願いがあって……」
「お願い?」
「あのね、迷わないでね」
「迷う? どういうことだい?」
「もう覚悟は出来てるの。私は迷わない、だから兄さんも迷わないで」
「……千歳、まさか……」
「兄さんのせいじゃない。多分……私のせいでもない。誰のせいでもないんだもん、だから、私達が悩むのは馬鹿みたいよ」
「千歳、私はお前を裏切らないよ。例えどんなことが起ころうが」
「……裏切らない自信が無いって言ってくれたら、どんなに楽かなぁ。でも、いいの、兄さんの好きな様にして。私も好きな様にする」
「……」
「忌児としての役目は、きちんと果たします。でも私は後悔しません、絶対に」
「分かった」
「良かった。ごめんね、夜分遅くに失礼しました。おやすみなさい」
「おやすみ」
後悔しない。
今、どれだけくよくよしても。どれだけ悩んで泣いても。どれだけ傷付いて傷付けても。
死ぬ前に笑うことが出来れば、それでいい。それで充分だ。
私はその、たった一瞬の為に生きてやる。
とうとう三桁に突入してしまいました。相変わらずグダグダですが、最後までお付き合い頂けると幸いです。