第一話:花水木
ランダムに第三者の視点と千歳の視点で描かれています。読みにくいかもしれませんが、ご了承下さい。
私は「呪われて」いる。
父も、母も、祖父も、祖母も、みんなそう言った。
ただ兄だけは違った。
花水木家。
私の家は先祖代々、由緒正しい家柄だ。当然親戚間の関係も深いし、何十人もの親戚が一度に集まる事もざらにあった。私にも既に許婚だっているし、将来は決められているようなものだ。テレビドラマや小説だとそういう運命に抗おうとするものだけど、私はこれで満足している。
普通に生きて、普通に死ぬ事さえ難しい身体なのだ。
そう、私は「呪われて」いるのだから……。
六月のジメジメした天気は嫌いだ。ちょっと雨が降ったら、お気に入りの傘でさえ私を濡す。こんな日はいつも、学校に行くのが嫌だった。
「千歳」
声の方へ振り向くと、少し困った顔をした兄がいた。
「……学校、ちゃんと行くよ?」
「ああ」
そっか、と小さく頷いてからスクッと立ち上がった。兄はただコチラを見て立っているままだ。
「いってきます」
カラカラと扉を開けて、家を出る。ちょっと歩いて直ぐにしゃがみ込んだ。
兄と話すのは苦手だ。
兄と話す時の沈黙が苦手だ。
兄といるのは苦手だ。
「あ、傘忘れた」
ハァ、と溜め息を零す。時計を見ると、いつもより少し早い。今から学校へ行っても暇を持て余すだけだろう。私は一目散に幼馴染みの家へ向かった。
「はい、あ。千歳さんか」
チャイムに気付いて出て来たのは、幼馴染み兼許婚の神林椿だった。大きな和風の屋敷に住んでいる。それにしても、椿本人が出るのは珍しい。朝食の途中だったのだろう、片手にトーストを持っていた。
「お母さん、千歳さんだったよ」
遠くから声が聞こえる。椿はトーストを食べ切り、鞄を取りに自室へ戻って行った。
「すいません、じゃあ行きましょうか」
いってきます、と届くわけもない母親に声を掛け、千歳達は外へ出た。
「何よ。相変わらずイイコチャンなんだから」
「オメーに言われたくねェよ。あー疲れた」
椿はキレイに整えられていた前髪をクシャクシャにした。外ではいつもこの髪型だ。椿も千歳と同じ。
「また辰爾さんと喧嘩したのか?」
「兄さんと喧嘩した事なんてない」
「辰爾さんもお前に負目があるからな」
椿は大きく空を仰いだ。曇り空なんか見ても気分は晴れないだろうに。
「最近は平和だな」
千歳はうん、と頷いた。
「お前の仕事もない。俺の仕事もない。平和だ」
チラリと椿の顔を覗き見してみる。嬉しそうな顔。千歳もつられて頬が緩む。
私の「呪い」は先祖代々続くモノ。
私達はそれをこう呼ぶ。
『忌児』と。
お読みいただいて感謝です!