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ねこ食堂  作者: 久乃☆
3/7

3.小さな宴会

「相変わらず、この店の料理はうまいね~。この調子で、明日も美味しいものを作ってくれよ」




 本日最後の客が暖簾をくぐって、店を後にした。




「疲れたねぇ。ミーコや、今日もお利口だったな」




 最後の客を送り出すと、暖簾を仕舞い、店の片づけを始める。


 店を開けるのも一人なら、店を閉めるのも一人だ。


 先ほどまでの客の笑い声が嘘のように、店の中はしんとしている。


 あるのは、鍋に残った少ない料理と、甘い香り。




「ミーコがいなかったら、寂しいだろうなぁ」




 そう言うと、おじいさんはミーコを優しく撫でてくれる。


 ミーコは椅子から下りると、おじいさんと一緒に階段を上る。上った先には、おじいさんとミーコの住まいがあるのだ。




「さて、ミーコ。今日も頑張ったから、一杯やるか?」




 おじいさんは、コップに日本酒を入れると、コタツに入った。


 ミーコには、温かいミルクと残り物の刺身が、小さな皿に盛られた。


 一人と一匹の小さな宴会が始まるのだ。




「今日はどうしたんだろうな……。いつも以上に疲れてるな」




 コップの酒を半分も飲まずに、体がだるいと言って横になってしまった。


 窓ガラスを叩く風の音は冷たく、部屋の中ではヒーターの音が温かさを呼んでいる。


 深夜のテレビは賑やかに笑っているが、何を言っているのかミーコには分からなかった。




 翌朝おじいさんは、いつもの時間になっても起きることはなかった。


 具合が悪いときは、店のガラス戸に『本日、店主の希望で休む!』とビラを貼るのに、今日はそれすらないのだ。


 昨夜、コタツで横になったまま、布団に入ることもしなかった。


 ミーコは、一晩中おじいさんのそばで寝ていたのだが、日が高く上っても目を覚まさないおじいさんに不安を抱いた。


 しかし、どんなに不安を抱いても、猫である自分にはどうすることもできないのだ。


 何度も何度も、おじいさんを起こすように、鳴いてみた。


 いつもは『舐めたらいけない』と言われる唇を舐めた。


 唇を舐めれば、怒って起きるのではないかと思ったのだ。


 しかし、おじいさんはそれでも目を覚まさなかった。


 


 夕方になり、いつもなら暖簾を上げる時間に、ミーコは店に下りた。そして、近所の老人の足音が聞こえると店の中で必死に鳴いた。



(お願い、気づいて! おじいさんが変なの! 助けて!)



 自分ではどうすることもできないもどかしさを、何とか伝えたくて、必死に鳴いた。


 


 老人は、いつもなら上がっているはずの暖簾がないことを不思議に思った。さらには、いつもは鳴かないミーコの鳴き声に、ただならぬものを感じた。


 しばらくすると、店の前にたくさんの人が集まり、店の鍵は難なく開けられた。


 集まった人たちが『こういうときは、ボロ屋の方が役に立つ』と言いながら、ミーコには目もくれずに階段を上がっていった。




「おーい、じいさん! どうした!」




 何人もの人が階段を上がり、そして動きが止まった。



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