第88話 オレの日常
年度末年度初め進行に入るためしばらく消息を絶つかもしれませんw
<第88話>
やあ、オレの名前はANDREW!
まんじゅうより大福が好きなほう、アンドリューです!
豆大福とかいいよな。
まんじゅうも別に嫌いじゃねえんだけど、大福の餅のしっとりむにむに感には敵わないんだよ。
オレの中ではな。
某柳の月のきな○ろもやもも○もちは至高。
あれ、前にもこんなこと言わなかったか?
まあいいか。
「トラさん!」
「おーう、どうしたよ、コン太」
血相を変えて狐のコン太が清水家の敷地内に駆け込んできた。
え、キツネの顔色なんか分かるのかって?
オレくらいになると分かるんだよ。
昼間っから人間の縄張りに入ってくるなんて珍しいな。
何かあったんだな。
「まあ落ち着いて水でも飲めよ」
「あ、すみません。いただきま……って何言わせんすか!?」
「さすがだな。で、どうした?」
ノリが良いのもこのへんのキツネの特徴だな。
「そうだった! ヤベえんすよ!」
「だから、何がヤベえんだよ?」
ノリは良いが頭は悪いな。
まあ、動物だからな。
「熊っす! 熊が出たんすよ!」
あ、もちろんこの北海道で熊って言ったらヒグマな。
本州と違って月ノ輪じゃねえからそこんとこよろしく。
つーか、ヒグマはマジでやばい。
「……どのへんだ?」
「まだ山の方っす。人里に降りてくる気配は今のところはないっす」
「ふむ……。じゃあ、ひとまずは様子見か。山の連中は?」
「いつも通りっすね。自分の身は自分で守れですわ」
「それは仕方ねえことだからな」
それも自然の摂理だ。
無闇にオレが介入して良いことじゃねえからなあ。
「師匠に伝えてくれよ。無理はするなってな」
「分かったっす!」
お互い、たしたししてから分かれる。
あ、このへんのキツネには恐怖の寄生虫エキノコックスはいねえぞ。
オレが全部駆除したからな!
あの風土病を北海道に最初に持ち込んだヤツは死罪に値するな。
元々北海道にあったもんじゃないらしいからな。
「さて、熊公め。どうするかな?」
もう一度ひなたぼっこ用の縁側(?)に寝そべると、風の精霊さんたちに山の方へ見回りに出てくれるようにお願いしておく。
まあ、そう簡単には人里まで降りてくることはあるまい。
まだ山から食料が消える時期でもねえしな。
「え、熊?」
「おう。少し気をつけといた方がいいぜ」
帰ってきたソラに山の方に熊が出ている件について話しておく。
「まあ、秋だしねえ」
「そうだなあ」
すでに晩秋にはさしかかろうとしている訳なのだが。
熊が目撃されるくらいはよくあることなので、山に入らない人はだいたいこんな反応になりがちだ。
山で遭遇してしまうと人死にが出るわけだな。
「とりあえず親父さん達にそれとなく伝えといてくれよ。山には入るようなことはないだろうけどな」
「そうね。でも、知り合いには木の仕事してる人たちもいるからね」
「だな。重機使ってる人は良いだろうけど、間伐とかしてるとな」
さすがの熊公も重機がゴウンゴウン動いてるところにはよってこないらしい。
清水の家は使い勝手の悪い山の中の畑は持ってないからある程度安心だ。
「よし、じゃあ飯頼む」
「はいはい」
未だに清水の家にいるときはオレはただの猫のトラだ。
まあ、そんな状況も別に不満じゃねえがな。
「この姿だと酒が飲めねえのがなあ」
「いつもお父さんと飲んでるじゃない」
「いやいや、ありゃあ飲むじゃねえ。舐めるだな」
「言ってなさいよ」
量も大事なんだぜ?
それから数日後。
『熊に襲われ重傷』
『熊の被害相次ぐ。警戒を呼びかける』
そんな記事が地元新聞に載るようになった。
「こいつはいけねえなあ」
新聞を眺めながら清水の親父さんがこぼす。
「どうしたんだい?」
「いや、例の熊だけどよ。どうもうまくないらしいんだわ」
「そりゃあ危ないねえ……」
お袋さんも渋い顔だ。
いつ知り合いが被害に遭わないとも限らないからなあ。
「そろそろハンターが出てくるんでないかい?」
「どうだべなあ。最近はハンターのなり手も少ないがら手が足りてないんでないべか」
「うーん、困ったもんだねえ」
「人里には降りてきてないのが救いだなあ」
全くその通りだ。
やっぱり山から下りてくる前にケリつけといた方がいいかな、こりゃ。
『そろそろかな』
『そうしなよ。せっかくの力なんだからさ』
『何言ってんだよ、ソラ。お前も来るんだよ』
『なんでよ!?』
『ソラ一人でも熊なんて一瞬だよ。オレの力もいらねえわ』
『か弱い乙女つかまえて何言ってるのかしら?』
『この世界で貴重な精霊使い様が何言ってらっしゃるんですかねえ?』
『私は一般人でいたいのよ……。せめて地球では』
『ふむ。それは一理あるな。ウィザリィならともかく、地球じゃなあ』
ソラの言いたいことも分からないでもない。
この世界では間違いなく異端だからな。
ソラが迫害されるのも困るし、やっぱりオレが一肌脱ぐしかねえか。
ま、迫害されるならウィザリィに移住すりゃいいんだけど、さすがに清水の親父さんたちに申し訳が立たねえしな。
『しゃあねえ。一肌脱いでやるか』
『頼むわよ。知り合いに被害者が出る前に何とかして頂戴』
『了解了解。まかしとき』
そんじゃ熊退治といきますかねえ!
「そんでお前さんが出張ってきた訳かい」
「そうなんすよ、師匠」
今オレは山の温泉でコン蔵師匠と入浴中だ。
この辺りの山のことなら師匠に聞くのが一番確実だからな。
「お前さんの数奇な人生は聞いちゃいるが、猫一匹でヒグマと戦うなんて正気の沙汰じゃねえ……と思うわな普通は」
「普通ならですね」
オレは普通の猫じゃねえからいいんだよ。
「お前さんなら問題ないだろ。オレもそろそろヒグマの相手をするにゃあ役者不足だ。ここは弟子に手柄を譲ってやるとするかあ」
本来役者不足ってのは正式な言葉じゃないらしいけどな。
力不足が一般的かい?
「ありがたいっす。かるーくひねってやりますよ」
ふいー。
しかし温泉は気持ちいいぜ。
人の姿でも猫の姿でも気持ちいいもんは気持ちいいんだなあ、これが。
「気持ちが良いのう……」
オレの横から艶っぽい声。
もちろんノンノですが何か?
温泉と聞いたらいない訳がない。
もちろん日本酒付きだ。
そして清々しいまでの全裸っぷり。
少しは隠せ。
「良い湯加減と温燗。極楽極楽」
「目の毒だな」
「好きなだけ見て目に焼き付けるが良いわ。見たければいつでも見せてやるものを」
「ソラにシメられんぞ」
「そいつは勘弁じゃなあ」
笑いながらぐいっと酒を口に運ぶノンノ。いいご身分で。
「さて、そんじゃ熊退治してきますわ」
「おうよ。ちょいとひねってこいや」
師匠から件の熊のねぐらを教わったオレは早速退治に出かけることにした。
善は急げって言うからな。
「貴様……。ふざけているのか、ああん!?」
「ふざけてねえよ。お前を退治しに来たんだよ」
ひどくご立腹のヒグマさんです。
まあ、日本最強生物に猫一匹立ち向かうってんだからふざけてるようにしか見えねえのは分かるんだけどな。
「猫の分際で俺様を退治だと? 気でも触れたか?」
「オレは至って正気だよ。人様に怪我させたとあっちゃあ堅気たぁ言えんだろうが。これ以上ヤンチャしねえで山奥に引っ込むってんなら痛い目には遭わせねえでやるよ?」
「言いたいことはそれだけか?」
「ああ、それだけだ」
ブオンと凄まじい一撃が叩きつけられる。
木の葉と土が舞い上がる。
「死んだか」
偉そうに。
この野郎、不意打ち気味に攻撃してきやがって。
ちょっと頭来たわ。
「偉そうな口聞いてんじゃねえよ」
土煙をカモフラージュにして跳び後ろ回し蹴りを鼻っ面に叩き込んでやる。
猫の姿でコレやると漫画みてえだわ、マジで。
「ぐおっ!?」
突然の一撃に怯む熊公。
「不意打ちとは汚え真似しやがる。ヒグマが聞いて呆れるぜ」
「貴様……。俺様を本気で怒らせたな!」
怒りに身を震わせる熊公。
本気だか何だか知らねえが、オレの忠告を聞かなかったことを後悔させてやるぜ!
「ば、馬鹿な……」
オレの目の前には熊公が大の字になってのびている。
まあ、獣の分際でオレ様に勝とうってのが無理な話なんだよな。
「何千回やってもオレには勝てねえよ」
「ただの猫じゃあないな……」
「そりゃそうだ。ただの猫がヒグマに勝てるわけねえだろうがよ。オレは特別なんだ」
「そうか……。俺様も運がなかったということか。さあ、殺せ」
おいおい、何言ってくれちゃってんの。
「命まで取る気はねえよ」
「なんだと?」
「生態系だよな。人にさえ迷惑掛けなきゃそれでいいんだ。勝手に深刻に考えるなってことだよ、熊さんよ」
「そうか……。完敗だな」
すがすがしい顔でそう言う熊公。
男たちはわかり合ったのだって感じか。
「まあ、次何かあったら容赦はしねえぞ?」
「貴様に救われた命だ。約束は守る。それに、何かあったら言ってくれ。俺の力で良ければいつでも使って欲しい」
「おうよ。オレを抜けばこのへんで一番強いのはお前さんだろうからな。何かあったら頼むぜ」
怪我だけは治してやって、オレの熊退治は終了だ。
さすがにあの熊も、もう悪さはしねえと思うがなあ。
次はあの世行きだぞ?
「あら、トラ。終わったの?」
「うにゃ~ん」
家に帰るとソラが洗濯物を干していた。
もう寒いから外干しはどうかと思うぜ。日の高いうちだけだな。
「にゃー」
もうあの熊は悪さはしねえはずだと念話で伝えておく。
「そう。それなら良いわ」
満足げに笑うソラだった。
ま、この辺の平和を守るのもオレの仕事の内ってことだよ。
平和な毎日ってヤツだな。
お読みいただきありがとうございます。
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