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第87話 運がいいのか悪いのか 後編

ちょっとだけいつもより長めです。

<第87話>


 やあ、オレの名前はANDREW!

 ポーカーやる時はついついストレートを狙ってしまうほう、アンドリューです!


 麻雀やる時はイッツーなんて狙わねえんだけどな。

 なんでだろうな。


 ん?

 じゃあ、麻雀やる時は何狙うんだって?

 オレはチャンタ狙いが多いぜ。

 タンヤオより上がれるような気がするのはオレだけかい?






「よく来た!」


 オレたちの目の前には痩せた白髪のジジイだ。

 骨と皮って感じの見た目だが、目だけが妙にギラついて力を放っている。


 ここはこのカジノビルの地下だ。

 いろんな仕掛けが施されているらしいが、招かれたオレたちには関係ない。


「一部始終見させてもらった。凄まじい度胸と運だな」

「そいつはどうも」


 このジジイはこのビル、つまりこのカジノ全体のオーナーだそうだ。

 とてつもない資産家らしいぞ。


「ワシはギャンブルが好きでなあ。お前達のような連中を見ると勝負したくなってたまらんのよ」


 ぎょろりとした目をぎらぎらさせてオレとソラを見るジジイ。

 舌なめずりせんばかりだ。

 どうやら厄介な手合いのようだ。


「いやいや、せっかく儲けたのにアンタと勝負して素寒貧は勘弁して欲しいねえ」

「かっかっか。なに、ワシに勝てたら1億だそう。もちろんドルでだ」


 1億ドルか。すげえ金だ。

 どうやって持って帰るかが一番の問題だな、うん。


「1億ドルって……」

「さすがソラ。勝つことしか考えてねえ」

「違うわよ!」

「違わねえよ。オレもそうだ」

「かっかっか。威勢のいい若者は好きだぞ。だが、もちろんお前さん方にも見合ったものを賭けてもらうぞ?」


 如何にも楽しそうに笑うジジイ。

 もちろん目は笑っちゃいない。


「オレたちに賭けられるもんなんてのは大したもんじゃないぜ。今晩勝った金だって、アンタからすりゃあ端金だろう?」

「もちろんそうじゃ。金なんぞに興味は無いわい」


 つまらなそうに言い捨てるジジイ。

 金持ちは嫌味だな。


「お前さん方が賭けられるものなんぞ1つしかあるまい」

「というと?」

「命だよ」

「言うと思ったよ。お約束だからな」


 にたりといやらしく笑うジジイを見て笑うオレ。

 何だよ、そんな不思議そうな顔すんなよ。


「肝は据わっているようだ。命だぞ?」

「だからなんだ。命のやり取りなんぞ日常だったぞ、こちとらな。というか、オレの命を取ろうなんていうヤツには久しぶりに会ったからな。新鮮だぜ」


 挑発するつもりで言った訳じゃないが、ジジイの雰囲気が変わる。

 真剣に勝負する気になったってところか。


「大きく出たな」

「大きくも無いさ。第一、オレに勝てる訳がねえよ」

「取り消せんぞ?」

「ああ。でも、1つだけいいか?」

「何だ。命乞いなら聞けないが?」

「するかよ。オレの命がチップだっていうなら、爺さんも相応のものを賭けてもらわねえとつまらん。オレが勝ったら、アンタの一番大事なものをもらうよ。いいだろ?」


 一瞬だけ素の表情が見えたな。

 大したヤツじゃねえな、おい。


「面白い。いいだろう!」


 口をぱかりと開けて笑うジジイ。


「ワシに向かってそんなことを言えたヤツは久しぶりだ。簡単には殺してやらんぞ?」

「やれるもんならやってみな」

「ちょっと待ちなさいよ」


 盛り上がってきたところでソラが口を挟む。


「何だよ」

「何だよ、じゃないわよ。人の命まで勝手に賭けないでくれる!?」

「今さら……。ここに来ちまった時点でその流れからは逃げられねえって」

「それは仕方ないと割り切るけど、私は勝負に参加しないわよ?」

「男に全てを託すというのか?」


 感心したようにジジイが言う。


「自分の命がかかっているというのに、他人にそれを預けるというのか?」

「え、当然でしょ?」


 ソラが心底不思議そうな顔をする。


「トラが負けるなんて想像できないし。お爺さんも変な勝負は止めた方がいいわよ?」

「さすがソラ。分かってるじゃねえか」


 それを聞いて声を上げて笑うジジイ。

 ぎゃふんと言わせてやんよ。




 勝負は定番ブラックジャックから。


「デッキは確認しなくていいのか?」

「そこまで下らねえ勝負しか出来ねえなら今すぐあの世に行っちまえよ?」

「そうこなくてはな」


 カードが配られる。


「ヒット」

「ヒット」

「ヒット」


 20で止める。

 ジジイは19でオレの勝ちだ。

 序盤は静かな立ち上がりだな。


「なかなかやる」

「じいさんもな。ルールは守るってか」


 薄く笑うジジイ。

 最初はオレに勝たせておいて後からじわじわって腹なんだろうが、そうは問屋が卸さねえってな。


 その後も一進一退の勝負が続く。

 ブラックジャックからポーカー、バカラ、クラップス……etc


 オレの幸運値と対等に戦えているだけでもこのジジイの強さが分かる。


「やるね、爺さん」

「貴様もな。ワシと戦えているだけでも驚嘆に値する。このレートで冷静に戦えること自体が驚きだよ。ましてや自分の命がかかっているというのにな」

「言ったろ。命がかかってるのは珍しくもねえってよ」


 お互いに顔を見合わせてニヤリと笑うオレたち。

 いいね、こういう感じ。


「さて、そろそろウォーミングアップはいいだろう?」

「まだ準備運動だったのかよ。十分やったんじゃねえのか?」

「いやいや、これで命がかかってるとはとてもじゃないが言えないだろう?」


 ジジイがパチンと指を鳴らす。


「なんだ?」

「なに、これ……」


 オレとジジイが向かい合っていたテーブルを中心にして、周囲を囲むようにアクリルの透明な分厚い壁が円柱状にせり上がってくる。

 水族館の水槽のように。

 要するにオレとジジイは閉じ込められた訳だ。

 見かけはな。


「本番と行こうじゃないか」


 にたりと邪悪な笑みを浮かべるジジイ。


「何をするんだ?」

「ルールは簡単だ。お互いに新品のデッキを1つ持つ。相手が引いたカードがハイかローかを当てるだけだ」

「それだけか?」

「いやいや、それだけじゃあスリルも何も無いだろう。ゲーム開始と同時にこのスペースに水が流れ込む。ハイかローかを当てれば、自分の椅子が5cm上昇し、相手の椅子が5cm下降する。もちろん自分が外せば相手が上昇し自分が下降するがね」


 おいおい、それじゃあ、お互いに当て続ける限り椅子は上昇しないだろ。

 共倒れになるだけじゃないか。

 ああ、外すことを当然としているわけか。

 そりゃそうだ。


「そして、7を引いた時だけは特殊ルールだ。引いた者の椅子は50cm上昇し、相手の椅子は50cm下降する」

「そいつはすごいな」


 どのタイミングで7が出るかで相当変わるなあ。

 水がある程度たまったところで7を連続で引けば一瞬で相手を水に沈められるってわけか……。


「イカサマの入る余地はないだろう?」

「そうだな。爺さんが超能力者じゃない限りはな」

「かっかっか。それならいいんだがな」


 オレと爺さんの足と腕が椅子に固定された。

 映画みたいにがしーんと飛び出してきた手枷と足枷でだ。

 いやあ、気分出るわあ。


「さて、始めようか。若いの」

「いつでも良いぜ、爺さん」


 水が流れ込み始める。

 結構良い勢いだな。あっという間に一杯になっちまうんじゃねえのか?


「ハイだ」

「ロー」

「ロー」

「ロー」


 お互いがコールを続ける。

 序盤はカウンティングも出来ないし、ひたすらカンと運に頼るしかねえ。

 そうなればオレが簡単に負けるわけがない。


「だいぶ水がたまってきたぜ?」

「そうじゃな。面白くなってきたわい」


 今のところ、お互いに7は引いていない。

 おかげで椅子の高さはほとんど一緒だ。

 すねくらいまではもう水がたまっている。


 アクリルの向こう側でソラが青い顔をしているのが見える。


「おいおい、ソラ。まさかオレが負けると思ってんのかよ?」

「そうじゃないけど……。ドキドキするじゃない!?」


 それもそうか。

 現実味はないよな。


「そうだ、爺さん」

「なんだ?」

「もし水に沈んでしまって声が出せなくなったらジェスチャーで示しても良いのか?」

「無論だ。出来ればな」


 よしよし、言質は取ったぞ。


 ついにお互いの首のあたりまで水がたまってしまった。

 そろそろ仕掛けてくるだろ?


「もういいか。楽しんだからな」

「勝負は終わりか?」

「ああ。貴様の死でな!」


 爺さんがカードをめくる。

 もちろん7だ。

 ドボンとオレの全身が水中に引きずり込まれる。


 とりあえず息を止めたふりをして爺さんにジェスチャーで示す。


「往生際が悪いぞ。7じゃなかった時点で貴様の負けだ」


 オレのカードは7じゃなかった。

 だからどうした。


 再度爺さんのめくったカードは7。

 そこから全部7だった。


「かっかっか! もう息も続くまい!」

「四連続なんて!!」


 ソラが思わず立ち上がって叫ぶ。

 大丈夫だって。


「貴様も四連続で7でも出してみるか? 無理だがな!」


 そう言ったジジイの背後に真っ黒いモノが現れた。

 黒い肌にねじれた角、コウモリのような翼。


「……悪魔!?」

「そうじゃ。ワシが契約した悪魔よ。捧げる魂も調達できて、絶望の表情まで楽しめる最高の娯楽だよ!」


 高笑いするジジイ。

 おいおい、それはフラグだろ。分かってねえなあ。


「知ってたよ、そんなこと」

「な!?」


 響き渡るオレの声。

 狼狽えるジジイの姿が滑稽だ。


「……馬鹿な」


 水中に没してからすでに5分近く経過しているのに、水の中で笑いながら口を動かすオレを見てジジイが愕然とした顔をする。

 悪魔も驚いているようだ。


「爺さんが何か人外と契約してるのはすぐに分かったよ。似た気配を知ってるからな。こっちの世界で悪魔を見るのは珍しいから、茶番に付き合ってやったんだ。ありがたく思えよ、爺さん?」

「なぜ生きている!?」

「おいおい。自分だけが特別だと思うなよ。今までよくそんなおめでたい頭で生きてこられたもんだぜ」


 やれやれというように頭を振ってやる。


「ほら、爺さん。勝負の続きだよ。茶番に付き合ってやったんだ。こっからは本気で行くぜ?」

「ば、馬鹿な! こんな勝負!」

「おいおい。勝手に降りるなよ。なあ、お前もそう思うだろ?」


 悪魔を見る。


『その通り。相手が生きているんだ。勝負は終わっていないな』


 意外と若々しい声で悪魔がしゃべった。

 ちょっとびっくりした。


「貴様! ワシと契約したのに裏切るのか!」

『心外だな。お前との契約は対価を捧げる代わりに勝負に力を貸す、だ。力は貸そう。だが、勝負はまだ終わっていないぞ?』

「その通りだぜ。さあ、爺さん、選べよ。ハイorロー?」

「ぐ、ぐぐぐ」


 悪魔の力なのか、オレのデッキから7はなかなか出てこない。この分だと最後の4枚まで出てこないな。

 だが、その方が好都合だ。


「さあ爺さん、あと4枚だ。どういうことか分かるよな?」

「い、嫌だ! こんな勝負は無効だ! 溺れ死なないなんておかしいだろう!?」

「往生際が悪いなあ。そういう人間がいるかも知れないことを考えておかない爺さんの落ち度だろう。勝手に無効にされたら敵わないぜ」

『その通りだな。そんな勝手は勝負事には許されない』


 悪魔もジジイを見限ったのか、そんなことを言う。

 おいおい、お前どっちの味方だよ。

 いや、悪魔に味方なんて概念を求めるほうが間違ってるか。

 おもしろけりゃそれでいいんだもんな。


「ふ、ふざけるな。こんな、こんな勝負が……」

「じゃあな、爺さん」


 当然オレのめくったカードは7。

 爺さんが引きずり込まれるように水没する。


「トラ!?」


 おいおい、ソラ。

 そんな顔すんなって。

 信用ねえなあ、オレってば。


「安心しろって。殺しゃあしねえよ」


 少なくともソラが見てる目の前ではな。

 心の中でそう付け加えておく。


 魔法を使って拘束具を破壊し、ついでにジジイも救出しておく。

 アクリルの水槽から転移で抜け出す。

 ジジイは床にでも転がしとけばいいか。


『貴方は魔術師なのか』

「そんなチャチなもんじゃねえ。オレは『大』魔術師だ」


 そこ重要。


「お前はこの世界の悪魔的にはどのくらいの位階なんだ。魔王くらいの力はあるのか?」

『そのような恐れ多い!』


 狼狽する悪魔。

 何だよ、使えねえな。

 どこぞの魔神様みたいに強いヤツだったら良かったのに。


「何だよ、下っ端か。じゃあいい、見逃してやるからとっとと消えろ。オレは種族で差別したりしねえからな」

『悪魔の我が身を見逃すと?』

「ああ。オレのとこにも悪魔はいるしな。別に変な話じゃねえよ」

『悪魔使いなのですか』

「違うよ。悪魔も使うってだけだ。場合によっちゃあ魔神もな」


 うん。たまにだけどな。

 世界中が大混乱しちゃうし。


『それほどの……』


 何か考え込むような素振りを見せる悪魔。


「だから、お前みたいな下っ端に用はねえんだ。とっととどっかで別な契約者でも探すんだな」


 油断も隙も無いフラグをへし折っておこう。

 雑魚は邪魔だ。


『そのようなつれないことを言わずに。私めはお金や宝石が大好きなのです。魔王様や大公爵様には敵いませんがちょっとした有名人ですよ?』

「いや、だからな?」

『いえいえ、皆まで言わずとも。もちろん契約の対価を頂こうとか思っておりませんからご安心下さい』

「人の話を……」

『コンゴトモヨロシク……』


 勝手に頭下げて姿消すんじゃねえ!?

 こっちの世界の悪魔とか別にいらねえし……。


「さすがトラ。安定のクオリティね」

「そんな評価いらないから!?」


 ……まあいい。

 別に悪魔なんて怖くもないし。

 とりあえずジジイだな。


「おい、ジジイは生きてる。お前ら手下だろ。どうにかしとけよ。あ、ついでにここでの話を漏らしたら多分大変なことになるぞ?」


 手下共が青い顔をして首を上下に振っている。

 ふと後ろを振り返ったら、さっきの悪魔がニヤニヤと嫌らしく笑いながら部下の黒服たちを睥睨していた。


「あー、うん、その……。なんだ、命が惜しかったら上手くやれよ?」


 またしてもブンブンと首を上下させる黒服。

 これだけビビってりゃ大丈夫だろ。

 ジジイももう無茶な勝負は出来ねえだろうし、悪魔の契約が無ければあの精力も持続できねえだろう。

 そろそろ寿命でお迎えが来てもいい頃だ。


 ちらりと悪魔をみると、イイ顔をしていた。

 多分、魂はコイツに持って行かれるんだろう。

 それが悪魔と契約なんぞしちまった人間の運命ってヤツだ。

 こればっかりは自業自得としか言えねえんだよなあ。


「よし、ソラ。帰るぞ?」

「分かった」






 オレたちは普通に飛行機で帰ってきた。


 ちなみに大量の勝ち分は、例のカジノに全部預けてきた。

 ジジイの悪事が明るみに出ることは多分無いだろう。

 悪魔も「そこは万事お任せを」と言っていたことだし。


 また来ることがあれば遊んでもいいし、現地で口座を作ったり、不動産を取得するのもお薦めってことらしいしな。

 オレの力で全額持って帰ってくることもできるけど、ぶっちゃけ邪魔だ。


 ちゃんと税金払えばまっとうな金になるらしいけど、とりあえず面倒事は避けよう。

 ちょっとの小遣いだけは持ってきたけどな。

 それくらいはお目こぼししてもらおうかな。


「それで、コレも持って帰ってきたわけかの?」

「まあ、その、成り行きで……」


 ノンノがオレの後ろに浮かんでいる悪魔を指さす。

 普通の人間には見えないそうだ。


『初めまして。私めはチンケな悪魔でございます。以後お見知りおきを』


 一礼する悪魔。


「トラの力なら祓えるじゃろ?」

「まあそうなんだけど。とりあえず一般人と契約させるより被害が少ないし。最悪滅ぼせば済む話だからな?」

「それもそうじゃのう。今さら人外が一人増えたところで驚くには値せんか。ワシはノンノじゃ。適度によろしくの?」

『こちらこそ。ご迷惑を掛けないよう気をつけますから』


 人外同士はそれなりに上手くやっていけそうだ。


「ソラにだけは迷惑掛けんなよ?」


 そこだけ注意な?

お読みいただきありがとうございます。


良ければ評価などよろしくお願いいたしますm(_ _)m

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