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第84話 ファンタジーin釧路 第四夜

ひとまず趣味のお話はここまで。

ああ、TRPGしたいなあ。

<第84話>


 やあ、オレの名前はANDREW!

 お土産物のクリアファイルをついつい買い集めてしまうほう、アンドリューです!


 たくさんあってもそんなに使わないんだけどさ、ついつい買っちゃうんだよな。

 お土産物屋とか高速のサービスエリアとかな。

 高くないし、あっても困らないしって思っちゃうんだよ。

 やれやれだぜ。






 真姫のインプレッサでHalf asleepに戻ったオレたち。


「まさかの洗濯機!?」


 驚いた声を上げているのは、眼鏡をかけた若い男。

 公立大学に通う大学生だそうで、名前を如月(きさらぎ)仙人(そまひと)という。

 もちろんここにいるからにはまっとうな人間では無い。

 というか、人間では無い。


 彼は、「コンピューターウイルス」なのだ。

 ただのプログラムでありながら、何か意志を持つ怪物であるかのように恐れられるウイルス。

 人々の正体不明のウイルスに対する恐怖や興味が彼を妖怪として顕現させた。


「多分な」


 オレは、カクテルグラスを傾けながらそう言った。

 時はすでに夕方。

 まだ飲み始めるには早いが、旅先でなら有りだろ。


「それが君の人間変身した姿か。なかなかエキゾチックだな」

「褒めても何も出ねえよ」


 真姫はオレンジジュースを飲んでいる。


「医者だからな。非番とはいえ酒はやらんよ」


 存在の在り方的に、アルコールは摂取しない決め事なんだろう。

 彼女や彼のような存在は、「自分で決めたルール」に縛られている。


「ワシは福司をもらおうかのう。日本酒はええのう」

「釧路の地酒ですから、気に入っていただけたら嬉しいですね」


 香坂マスターはもとが酒瓶だけあって、酒を飲んでもらえるのが嬉しいようだ。


「そろそろ顔を出す頃じゃないですかね」

「そうだな。晩ご飯の時間だからな」


 香坂マスターと真姫がちらりと時計を見ながら言う。

 誰かがくるんだな。

 話の流れ的には、事件がらみな気がするんだが。


「犯人が分かったそうですね!!」


 勢いよくドアが開けられて、カウベルが派手な音を立てる。

 ドアから入ってきたのは、眼鏡を掛けて長い髪をヘッドドレスでまとめた、ゴスロリ美少女だった。

 黒を基調とした精緻なレースフリルたっぷりのロリータ服。

 所々にちりばめられた真っ赤なリボンが毒々しいイメージだ。

 だが、それが不思議と良く似合っている。


 本来のゴシックってのは、日本で広く知れ渡っているイメージとはまた別なものらしいが、そのへんは触れずにいた方がいいだろう。


「やあ、そろそろ来る頃だと思っていたよ、輝夜(かぐや)ちゃん」


 香坂マスターが微笑みながら手を上げる。


「真姫さん、どういうことですか。私を出し抜いて犯人特定とは。いえ、犯人云々はどうでもいいのです。私の『謎』を解いたのは何処の何方でしょうか?」


 ソファが置かれたテーブルに陣取っていた真姫の向かいに輝夜と呼ばれたゴスロリ少女がすとんと腰掛ける。

 私立の中学校に通う十四歳。

 世の中の謎という謎を解き明かしたいと願う、美少女探偵だそうだ。


「ふふ。そら、そこのカウンターで優雅に酒を飲んでいる彼だよ。彼はアンドリュー。大魔法使いだよ」

「おい。まあ、人型の時はいいか……」


 使い分けてくれるんならいいか。


「大魔法使い? 礼夢さんの同類ですか?」

「いや。正真正銘の魔法使いだ。この世界の住人では無いそうだ」

「世界を渡ってきたと?」

「そんなモンだ。よろしくな」


 グラスを掲げてみせる。

 ついでにお代わりも。


「では、その魔法とやらで謎を解明したというのですか」

「完全にではないがね。魔法を使うのは卑怯かい?」

「そんなことはありません。どんな方法を使おうともそれはその個人の持つ力です。それが卓越した推理力であろうが超能力であろうが魔法であろうが妖術であろうが。ただ単に先を越されたことに対する嫉妬心があるだけですからお気になさらず」


 その表情からは悔しさが滲み出ている。

 そういう何かを抱えた妖怪なんだな。


 調査に関してゴスロリ美少女、輝夜に詳しく話してやる。


「なるほど。この世界の魔法とは全く法則が違うんですね。反則気味です」

「いや、十分反則だとオレも思うよ。だけど、そうなんだから仕方ない」

「それで、あと二日ですがどうする気なんですか?」

「さて、どうしたらいいかね?」


 一番いいのは西港に網を張ることだ。

 二日あれば、全域をカバーする感知網を設置することが可能だ。

 この方法の欠点は、最低もう一人の被害者が出ると言うことなんだが。


「どこのだれが次の被害者になるのかは全く予想できない。オレの言いたいことが分かるよな?」

「もちろんよ。申し訳ないけれど、その人には犠牲になってもらうしかない」

「それなら話は早い。二日後にケリを付けよう」


 輝夜が真剣な表情で頷く。

 犠牲者は少ない方がいいが、これから先ずっと被害が増え続けるよりはいい。

 そんな風に思えてしまうオレは、きっと異質なんだろう。

 でも、それでいい。

 オレはオレだ。


「何を深刻な顔をしておるんじゃ。とりあえず今晩は飲もうではないか!」

「それには賛成だ」


 こういうときはノンノのお馬鹿っぷりに救われることもあるな。

 計算してやってるわけじゃないだろうけど、たまには役に立つぜ。


 その晩は、さらに「Half asleep」の仲間たちが加わって夜中まで飲んだ。

 人外同士、群れて助け合って生きていくことにも意味があるんだろう。

 誰にでも生きていく権利はあるんだからな。




「さて、今晩でケリを付けるぜ」


 二日後。日も暮れた港は昼とは全く違う印象だ。

 正直ちょっと不気味だ。


「そうじゃのう。何処に現れるかじゃな」

「そこは頼むわ、アンド……いえ、トラ」


 言い直す輝夜。

 オレが猫形態だから気を遣ってくれたようだ。


「任せろ。探査魔法は完璧に働いてるぜ」

「居場所が掴めたら、人払いも頼むわね。エレさん、よろしくお願いします」

「分かっていますわ。敵を発見し次第壊せば良いのですね?」


 輝夜に答えたのは、金髪碧眼のお嬢様だった。

 彼女はエレアノール。


 彼女は留学しに日本へ来ている……という名目で学生生活をエンジョイしているれっきとした貴族のお嬢様だ。

 何故こんな辺鄙なところにいるのかは知らんが、香坂マスターと彼女の父が知り合いだそうで、その関係だと言っていた。


 そして彼女は夢魔(サキュバス)だ。

 夢魔(サキュバス)なのである。

 代々由緒正しい夢魔(サキュバス)の家系で、イギリスの裏世界では公然の秘密だそうだ。


 だから、なんでこんなところにそんな大物がいるんだよ……。

 すげえな、釧路。


「ふふ。わたくしにかかれば器物の妖怪如き一捻りですわ。そのあとは、ちょっと別な汗をかいてみませんか、アンドリュー様?」


 妖艶な流し目をくれるエレアノール。

 やばい。

 色気たっぷりだ。

 ぐらっときてしまいそうだが、そこは雑念を払うのだ!


「猫形態のオレにはそんな流し目は通用しないぜ!」

「うふふ。目眩く一夜をご提供いたしましてよ?」


 いつの間にか抱き上げられていて耳元に囁き声が聞こえる。

 いつの間に!?


「わたくし、種族の差なんて気にしませんわよ。そんな勿体ないこと」

「気にしてくれ……」

「ましてや人に変身する事も可能なアンドリュー様ですもの。何の障害もございません」


 ふぬぬ!

 色即是空空即是色。

 心頭滅却して火傷で死亡!?


「と、とにかく今は洗濯機を壊すことを考えよう!」

「うふふ。仕方有りませんわねえ」


 オレを抱っこしたままエレアノールが笑う。

 背中をエレアノールの繊手が優しく撫でる。

 耐えろ、耐えるんだ、オレ!


 しばらく時間が流れ。


「……来た」


 オレの魔法に反応があった。

 人外の気配。

 すかさず一隊に人払いの結界を張り巡らせる。


「エレアノール、あっちだ。行ってくれ」

「あら、イッてくれだなんて気が早いですわ」

「イッてるのはお前の頭だ!?」

「それは承知しておりますわ」


 クスクスと笑いながら、エレアノールがその背中にコウモリのような皮膜状の翼を展開する。


「イキますわよ」

「その表現止めろ!?」


 ばさっと翼をはためかせると、エレアノールの身体が宙を舞う。

 抱かれたオレも一緒に空へ。

 ノンノと輝夜は地上を走る。

 がんばれよー。


「落とすなよ」

「もちろんですわ。というか、落ちたところで困りませんでしょう?」

「それはそれ、これはこれだ」


 ぎゅっと抱かれると豊満な二つの膨らみが押しつけられて……。

 いかんいかん、これもコイツの作戦に違いない!


「あそこだ!」


 自然にあらざる者の正体を明らかにする魔法を唱えると、今まで透明になっていて見えなかったヤツの正体が明らかになる。

 それはまさに洗濯機。

 ドラム型ではないようだ。

 10kg以上は洗えそうな大型のタイプだな。


「もう、タイプだなんて。正直すぎますわよ」

「お前に言ったわけじゃねえし!?」


 クスクス笑うエレアノール。

 いかん、ペース崩されたら負けだぜ。


「中に生命反応があるな。誰か洗われてる真っ最中だ」

「気にしなくて良い方向で?」

「出来れば殺したくはないな」

「では、まずは吐き出させなくてはいけませんわねえ」


 急降下するエレアノール。

 自分で飛ぶのと違って急にGが来るのがアレだな。


「そ~れっ!!」

「ちょ、おま!?」


 急降下の勢いそのままに、ハイヒールで洗濯機に全力の跳び蹴りをぶちかますエレアノール。あなた、貴族のお嬢様じゃ無いんですかねえっ!?


 がががっと異音を発して、洗濯機が中から肌色の何かを吐き出す。

 若い男のようだ。

 つまらぬものを見てしまった……。


「ノンノっ、回収しとけ!」

「了解じゃ!」


 気を失っているらしい人間をノンノと輝夜が回収するのを見届ける。


「こんな汚いもの見せないで欲しいわ!」

「仕方あるまいよ。お主と手見た目通りの歳でもあるまいに」

「デリカシーの問題よ。一応今は女子中学生ですから!」


 ノンノと輝夜が何やら漫才を繰り広げているようだがとりあえず無視する。


「さて、破壊しますわ」

「そうだなあ。使い道はありそうな気がするんだが」


 コイツに洗わせればとてつもなく「いい人」になるんだから、役に立ちそうだ。

 ちょっと説得してみるか。


「おい、お前」


 言葉が通じるかが問題だが、呼びかけたら動きを止めたところを見ると言葉が通じない訳じゃあなさそうだ。


「何のために人間を洗うんだ?」


 ごうんごうんと音がする。

 まさかこれで会話してるつもりなのか?


「言葉なんか通じますの?」

「ま、試してみるわ」


 異言語通訳の魔法をオレと洗濯機にかけると、頭の中に言葉が流れ込んでくる。


「オレ、アラウ。キタナイモノアラウ。ソレガシゴト」

「まあ、そりゃそうだ。だからって人間洗わなくてもいいだろ」

「オレ、コワレテステラレタ。デンキナイ。ウゴカナイ。デモウゴケルナッタ。イキモノアラエル」


 なるほど。

 こいつはもっと働きたかったんだな。

 生まれたばかりって感じか。


「なんだ、じゃあお前、もっと働きたいんだな」

「ハタラク?」

「もっと洗いたいんだろ?」

「ソウ。モットアライタイ」

「じゃあ、オレと一緒に来いよ。色々洗わせてやんよ」

「ホントウニ?」

「本当だ。だから、とりあえず一緒に来い」

「ワカッタ。イッショニイク」


 いとも簡単に説得できた。

 ちょろいぜ。


「急に黙り込んでどうしましたの?」

「おう。説得に成功したぜ。とりあえず連れて行くことにするわ」

「説得したって……。驚きですわ」

「オレにかかればちょろいもんよ」

「わたくしもきっとチョロいですわよ?」

「それはおいとけ」


 こうしてオレたちは、一連の騒ぎの犯人を「説得」して、「Half asleep」へ連れ帰ることになったのだった。




「この子が犯人ですか」

「そうだ」


 店の床にでんと置かれた洗濯機。

 大人しくしている。


「こうしてみると普通の洗濯機にしか見えないわね」


 輝夜がしげしげと眺めている。

 あ、被害者の男は警察に通報だけしておいてきた。

 多分大丈夫だろう。


「なるほど。彼はもっとお洗濯がしたいようですね」

「マスター、言葉が分かるのか?」

「ええ。私ももともとは物ですから。器物と話すことが出来るのですよ」


 ちょっと驚いた。

 まあ、そういう力を持ってる妖怪がいるのもおかしくはないか。


「別に人じゃなくても洗えるんじゃねえのか?」

「みたいですね。電気代も水道代もかからない洗濯機なんて最高です」

「それなら話は早えや。マスター、コイツはここに置いてやってくれよ」


 そうすりゃ万事解決じゃねえか。


「もちろんですよ。たくさん洗ってもらいましょう。表に出せないような事件の犯人も、上手くいけばこれで真人間に戻すことが出来るかも知れませんしね」


 そういって微笑む香坂マスター。

 つーか、表に出せない事件って……。

 いや、そういうところに踏み込むのは止めよう。君子危うきに近寄らずだ。


「何が洗えるんですかねえ。食器とかも洗えますかね」

「そいつは便利だろうな」


 ひとまずこれで解決か。

 良かった良かった。


「今回はあなたの魔法に先んじられてしまったけど、次は負けないわ!」


 ビシィッと効果音付でオレを指さす輝夜。


「いや、勝つとか負けるとか。次は無いかもしれねえだろ」

「そんなことはありませんわよ、アンドリュー様。これでお終いなんて薄情すぎますでしょう?」


 いつの間にかしなだれかかってくるエレアノール。

 胸が当たってるよ!

 胸ががが。


「ううむ、さすが本場の夢魔はアピール力が違うのう」

「そんなこと言ってる場合なんですかねえ、ノンノさん!?」


 いかん、流され切る前に退散するべきだな!




 しかし、結局明け方まで飲み明かしてしまったのだった……。

 でも、貞操は守りきったぞ!


「わたくしの魅了の力と術が通じないなんて……。ますます気になりますわ!」

「オレの抵抗値なめんな。っていうか、獲物を見る狩人の目は止めて下さい。マジで」


 何だか変な縁が釧路に出来ちまった気がするぜ!?

お読みいただきありがとうございます。

良ければ評価などよろしくお願いします。

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