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第82話 ファンタジーin釧路 第二夜

続きです。


良かったら新作「探索者は異世界でも宝を求む」もよろしくお願いしますm(._.)m

<第82話>


 やあ、オレの名前はANDREW!

 ジーンズはボタンフライよりもジップフライが好きなほう、アンドリューです!


 だってほら、いざって時に慌てたくないだろ。

 特に酔っ払ってる時はな!!


 ちなみにデニムってのは生地そのもののことで、ジーンズってのは製品になったパンツのことを指すらしい。デニム生地じゃなくても製法によってはジーンズと呼ばれるパンツもあるらしい。ジーパンは和製英語だから日本でしか通じないらしいし。

 なんだか複雑だな。


 あれか、カフェオレとカフェラテの違いみたいなもんか。






「さて、行くか」

「分かった。しかし、何故に猫の姿なんじゃ?」

「いや、その方が動きやすそうだろ。不意も打てるし」

「そんな必要があるかのう。ワシとお主が荒事で負けることは無かろうよ」

「まあ、魔法はこの姿でも問題なく使えるからな」


 いつものように虎猫になったオレは、ノンノの肩によじ登る。

 地図はさっき確認済みだ。


 まずは釧路町へと向かう。

 公立大学にほど近い芦野というところに件の喫茶店はあるらしい。


「バスでいくのか?」

「面倒だ。タクシーでいいだろ。店名言えばわかんだろうさ」


 駅前でタクシーを捕まえると、「Half asleep」という店名を告げてスマホで地図を見せたら分かってくれたので、無事にその喫茶店には辿り着くことが出来た。


「夢現ってところか。怪しい店にはぴったりの店名だな」

「さて、鬼が出るか蛇が出るか」


 真鍮製のプレートが下がったドアを押し開けると「カランカラン」とカウベルの音。

 店はカウンターとテーブル席が6つほどのこぢんまりとした普通の喫茶店だ。

 心地よいジャズが流れていて、カウンターの向こうにはパイプを咥えた白いひげの親父がグラスを磨いていた。


「いらっしゃい。お好きな席へどうぞ」


 こちらを見て朗らかに微笑む親父。


「猫を連れておるんじゃが、構わんかのう?」

「ええ、どうぞ。ウチにも看板猫がいますからね」


 そういって出窓を見る。

 そこには青灰色の艶やかな毛並みをしたロシアンブルーが、丸くなってひなたぼっこしていた。


 ふん。

 親父といい、ロシアンブルーといい、人間じゃねえわ。


「コーヒーをもらおうかの」

「かしこまりました」


 カウンターの向こうでケトルが湯気を噴いている。

 しばらくコーヒーをドリップするいい香りが店内に漂う。


「どうぞ」


 ノンノの前にカップとソーサーが置かれた。

 オレはとりあえずノンノから離れると、出窓で寝そべっているロシアンブルーに近づいていく。


「よう、名前はなんて言うんだ。オレはトラだ」

「……」


 ちらりとこっちを見ただけでまた寝そべるロシアンブルー。

 愛想が無いな。


「無視すんなよ。ちっとばかり毛色は違うが似たようなもんだろ。お前は妖怪か?」


 ぴくりと耳が動くと、こっちを見るロシアンブルー。


「オレは正確には妖怪じゃないが、まあこっちの世界では似たようなもんだ」

「……蒼」


 ぽつりとそういうロシアンブルー。

 名前は蒼っていうらしいな。


「蒼か。そんな長い付き合いにはならないと思うがよろしく頼むぜ」

「……よろしく」


 それだけ言うと、またごろりと寝そべる蒼。

 まあ、コミュニケーションが取れただけでも良しとするか。


「お客さんはどちらから?」

「帯広からじゃ」

「観光ですか」

「この時期にか。まあ、釧路グルメを楽しみに来たのは否定せんがのう」


 カウンターではノンノとマスターが何やら会話しているようだ。


「オレも混ぜろよ」

「おや、あっちの化け猫とはもういいのか?」

「ああ。とりあえず自己紹介だけだ。マスターもよろしく頼むぜ」

「はい、トラさん。サキさんから話は聞いていますよ」


 にこりと丸顔に人懐っこそうな笑みを浮かべるマスター。

 この喫茶店「Half Asleep」は、帯広の「アンバー」と同じで人外の互助組織の拠点だ。サキさんが話を聞いた釧路の友人というのは、おそらくこのマスターだろう。


「なんじゃ、マスターも人外か。ワシはノンノ。アイヌの神じゃった」

「なんと。それは高位の御方ですな」

「そんなことは無い。今ではただの酒飲み娘じゃよ」

「娘? ババアの間違いじゃ……」


 ノンノから発せられる闘気が膨れあがったので台詞は言い切らない。

 別にビビったわけじゃねえぞ。

 戦えばオレが勝つからな。


「私は、この店のマスターをしております香坂と申します。元々は酒瓶でしてな」

「なんと。では早速一献……」

「アホか。夜まで待てよ」

「むう。仕方有るまい……」


 ホント酒飲みだな。


「例の事件の話を詳しく聞かせてくれ」

「分かりました」


 香坂マスターの話をまとめると以下のようになる。


①事件は満月の夜に起きている。

②事件の被害者は一人の例外も無く「いい人」になってしまう。

③事件の被害者は四人とも西港で発見されている。

④事件の被害者に共通する項目は特にない。


「よく分からんな」

「不思議でしょう。ウチでも結構調べたんですが、あまりに手がかりがありませんで。サキさんに話をしたのもそういう理由があったのですよ」

「なるほどなあ」

「アンドリューがおればすぐに解決じゃ。安心せい」

「アンドリュー?」


 ノンノがうっかり口を滑らせてしまったので、仕方なく説明する。


「なるほど……。そんな事情が」

「そうなんだよ。だから、猫の時はトラって呼んでくれな」

「分かりましたよ、トラさん」

「すまぬ。ついうっかり」

「どこのうっかりな八の字だよ、まったく」


 しかし、手がかりが少なすぎるな。

 被害者に特に共通点が無いということは、次の被害者の傾向が掴めないってことだ。

 事件を未然に防ぐのは難しいと言うことになる。


「とりあえず被害者は全員西港で発見されてるんだから、まずはそこからか」

「犯人は現場に戻るというヤツかの?」

「そういう訳でもねえが。ただ、オレもノンノも土地勘が無いからな。マスター、誰か案内してくれるようなのはいねえかい?」


 オレは異世界の住人だし、ノンノは遙か昔の北海道しか知らねえ。

 見知らぬ街で効率よく遊ぶ……もとい、調査するのはなかなか難しいのだ。


「案内人ですか……。ふうむ、数人ですが心当たりがおりますな。いずれ店に来るでしょうから、その時にでも確認してみましょう」

「よろしく頼むぜ」


 さて、となると時間が開いてしまうな。

 どうしたもんか。


「昼飯にするには早すぎるじゃろ?」

「そうだなあ。こんな時徒歩だとダメだな。今度車買うか」


 いつもは転移魔法使ったりソラの車で動くことが多いのであまり気にしていなかったが、そろそろ自前で移動手段を持つべきかもしれん。

 ウィザリィでも魔法を動力にして動く車は作る予定だからな。

 そんなことを考えていたら、カランカランとカウベルの音が響いた。


「マスター、コーヒーを頼む」


 店に入ってきたのは、アンダーリムの高そうな眼鏡に長い黒髪を後ろで一本に束ねた知的な美女だ。

 何故か白衣を着ている。

 科学者とかそんな雰囲気だな。


「おや、真姫さん。夜勤明けですか」

「ああ。別に急患も来なかったし暇なものだ。手術のチャンスは無かった。残念だ」


 カウンターまでつかつかと歩いてくると、椅子にすっと腰掛ける。

 会話から察するに医者のようだ。

 つーか、手術したいのかよ。


「む、平日のこんな時間から客とは珍しいな」


 ノンノを見ながらそんなことを言う真姫と呼ばれた女。

 まあ、平日の午前中から喫茶店にいる美女も珍しいか。


「真姫さん、帯広の『アンバー』の関係者さんですよ」

「……ああ、そうなのか。ということは?」

「ええ、そういうことです。お二方ともね」


 ノンノと猫姿のオレをしげしげと見つめる真姫。

 うん、美人だな。

 だが、何というか、怜悧な、刃物のようなイメージだ。


「私は刀之院真姫。医者だ。何せもともとがメスだからな」


 一瞬「雌」に変換されかけたが、メスのことだと気付く。

 危ねえ危ねえ。危険な勘違いだぜ。


「ワシはノンノ。アイヌの神じゃった。こっちはトラじゃ」

「神と呼ばれた妖怪に会うのは初めてだな。いや、沙羅が近いか……」

「短い付き合いだろうがよろしくな、真姫さん?」

「かもしれないし、違うかも知れない。帯広なんて近いものだよ」


 そう言って笑いながら右手を差し出す真姫。

 あ、握手か。

 猫の手のままとりあえずたしたししておいたぜ。


「そうです。真姫さん、この後は時間があると言うことですね?」

「ん? 確かにそうだが?」

「済みませんが、お二方を案内してあげてくれませんか、西港まで」

「西港まで? ああ、例の事件解決に協力してくれるのか」


 得心がいったというように手をぽんと叩く真姫。

 どうやら、この女医さんが協力してくれることになりそうだ。


「なんせほら、足も無いわ土地勘も無いわでどうにもならなかったんだよな」

「なるほど。いいだろう。とりあえずコーヒーを飲んでからでいいかな?」

「もちろんだぜ。こっちは助けてもらう側だからな」

「そう言ってもらえれば助かる。別段睡眠を取らねばならない体質では無いのだが、夜勤明けのコーヒーはやはり格別なのだよ」


 その気持ちは分かるぜ。


 まあ、美味いコーヒーはいつ飲んでも格別なんだけどな。

お読みいただき有り難うございます。

良ければ評価やランキングのリンクを踏んでいただけると助かります。

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