第4話 どこの地方領主様ですか?
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<第4話>
やあ、オレの名前はANDREW!
アンドリューだ!
最近は飼い主のソラに「トラ吉」なんて呼ばれてるけど、アンドリューなんだぜ!
さて、この家「シミズ家」に拾われてきてから一ヶ月が経とうとしている。
その間にオレは立派な子猫になり、離乳食も始まった。ようやくまともな飯が食えるってもんよ。
もちろんトイレや爪研ぎだってばっちりだぜ!
・・・言ってて悲しくなってきた。
とはいえ、この猫の体じゃあ慣れるしかないしな・・・。
人間、諦めが肝心ってな。
さて、歩き回れるようになってから今日まで、この家と周辺を探索した結果をまとめておこうと思うんだ。
まず、家がでかい。地方領主の館くらいはあるな。
というか、もしかしたら地方領主なのかも知れない。
なんせ、この家の周りは全て畑だ。見渡す限りの平地が広がっている。もし全てがこの家の所有地だとしたら、かなりのものだろう。
全ての畑は綺麗に耕され、農作物が植えられるようだ。しかも、たっぷりの肥料も畑に使うことが出来ている。
そして、たくさんの家畜を所有している。
鶏のような小さいものから牛のような巨大なものまでだ。
馬も2頭飼っているところを見ると、仕える騎士が乗るのだろうか。見事な巨躯の黒毛と鹿毛の馬だ。
よほどの金持ちなのか?
となると、たいそう多くの小作人を抱えているのだろう・・・と思いきや、そうでもないらしい。
それを可能にしているのが「魔法生物」の存在だ。そして、このゴーレムの存在が「シミズ家」をどこぞの領主だと思わせる原因でもある。
人を乗せて爆音を響かせて動き、土地を耕すゴーレム。
同じく人を乗せて、魔法の水を畑にまくゴーレム。
他にもたくさんのゴーレムがこの家の倉庫には保管されている。
これほど高性能なゴーレムを、しかも農作業用に作らせて使うなど、よほど裕福な貴族なのだろうな。
そして、家の中に溢れている魔道具だ。
ボタン一つで真昼のような明るさを供給する「照明」の魔道具。
モノを冷やしておくことの出来る「冷蔵」の魔道具。
スイッチ一つで家中を暖めることの出来る「暖房」の魔道具。
つまみをひねるだけで火がつく「発火」の魔道具。
薄く四角い板に、映像を映し音を奏でる「遠見」の魔道具。
数え切れないほどの魔道具が家中にひしめいているのだ。
しかも、家の中だけではなく、牛舎や鶏舎にまで暖房の魔道具が備え付けられていたりもする。
家畜にそこまで金を掛けるとは正気の沙汰じゃないぜ!
オレがいた元の世界にも、これほど高性能の魔道具を大量に持っていた貴族に心当たりがない。
全て買いそろえたのだとすれば、どれほどの財産を持っているのか。
それとも、魔道具を作成することの出来る者が家臣にいるのか?
しかしそうした魔術師がいる気配はない。
なぜなら、オレ以外に魔術を使うヤツがいないからだ。
魔力というものは、生物なら誰でも持っているものだし、その辺の草木や岩、果ては大気に至るまで遍く存在している。その存在を感知し、自らの内に取り込み、魔術に変換できる者こそが「魔術師」なのである。
要するに、いくら膨大な魔力を持っていようが、使えなければ宝の持ち腐れって訳だ。
この「シミズ家」の連中は、残念ながら魔術師の素養はなさそうだから関係ないけどな!
しかし、この世界は不思議だ。
至る所に魔力は溢れているが、誰もそれを使っている気配がない。
もしかしたら、魔術師という存在が非常に稀少な世界なんだろうか。
もちろん、元いた世界だって魔術師ってのはありふれた職業じゃなかったけど、レベルを問わなければそれなりに魔法を使うヤツはいた。しかし、この世界では一番初級の魔術でさえ使われた反応を感じない。
魔術師がそれほど稀少なものだとすれば、オレの力は隠しておかなくちゃまずいな。
しかも今のオレ「猫」だしな!
少なくとも元の世界の時のように、軍隊を相手にしても一人で勝てるような、そこまでのレベルに達するまでは秘密にしておかなくちゃな・・・。
「よう、今日も散歩に精が出るね」
「まぁね。まずは体を鍛えなくちゃねぇからなあ」
「いいこと言うぜ。そう、健全な精神は鍛え抜かれた筋肉に宿るんだぜ!」
「筋肉かよ・・・」
散歩中のオレに話しかけてきたのは、この家で飼われている二頭の馬だ。
黒毛の方が「クロ」で鹿毛の方が「ベイ」だそうだ。
二頭合わせてクロベイってことなんだろうか。
だとしたら、この家の連中は相当ネーミングセンスがねぇな!!
ちなみに筋肉にこだわる方がクロだ。
「おうよ。筋肉つけねぇと働けねぇだろ。オレたちゃあ今となっちゃあ道楽で飼ってもらってるようなもんだ。せめて畑仕事くらいにゃあ役に立ちてぇだろうが。」
「なんだ、騎士様を乗っけて勇ましく戦うのは廃業したのか? そんだけ立派な体ならさぞかしいい軍馬だったろうに」
「ああ、軍馬? 何言ってんだ、それいうなら輓馬だろうが?」
「輓馬? なんだ、訛ってんのか、お前ら?」
「いや、そうじゃなくてよ・・・」
「クロ、生まれて一月の子猫にそんなこと言ったって分かるわけないだろ?」
「おお、ベイ。それもそうか。まぁ、とにかく戦うのはオレらの仕事じゃねぇってことよ」
ふうん。
そうは見えねぇけど、どっか怪我でもしたのか。それとも乗せてた騎士様が死んじまったのか。
あんまり深くは詮索しねえ方が良さそうだな。
「おう、何となく分かったぜ」
「それでいい。散歩もいいが、怪我しねえようにな」
「ありがとよ。じゃ、またな」
馬たちと別れて、次は牛舎だ。
「あらん、トラちゃん。今日も見回りかしらん?」
「トラじゃねえって、アンドリューだって言ってんだろ」
「だってソラちゃんはトラちゃんって呼んでるわよ?」
「あー、そりゃあなんだ、仮の姿っていうか・・・」
「難しいことはよくわかんないわよ、トラちゃん」
「・・・もうそれでいいわ」
踏まれたら間違いなくあの世行きなので気をつけて通り抜ける。
「いやん、もう、早速ハエかしら。まだ寒いってのに」
「蜂よっかいいだろ」
「飛び回られると気が散るのよねぇ・・・」
随分繊細だな、牛w
しゃあねぇなぁ。
バチッっと音がして、一匹のハエが黒こげになって落ちた。
「あら、いなくなったわね。どうしたのかしら?」
「どっか飛んでったんだろ。そんじゃな」
こうやって、地道に経験値を稼いでいるわけよ。
とりあえず、最初は虫からだな。
序盤のレベル上げが終わったら、次は取れた作物を狙うネズミや畑に悪さするキツネあたりか。
今んとこ魔物がこの家の周辺にいる気配はなさそうだけど、油断は禁物。
とりあえず、この世界に来て、命を救われた恩は働いて返すぜ!!
いや、レベル上げがメインだからな!
勘違いすんなよ!?
お読みいただきありがとうございます。
良ければ評価等お願いいたします。
やはり現代世界に転生なので、壮大な勘違いはお約束かなって・・・。