第13話 御狐様は武の人?
しばらくぶりでございます。
見捨てないでいただけた方はお付き合い下さいませ。
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<第13話>
やあ、オレの名前はANDREW!
アンドリューだぜ!
草木も眠る丑三つ時。
ちなみに丑三つ時ってのは午前2時くらいのことらしいぜ。
時を数えるにも複数の名称があるとか、どんだけこの国の人間はこだわるんだか。
さて、そんな時間にオレはふと目を覚ました。
別に悪夢を見たとか、突然トイレに行きたくなったとか、そういうことじゃないぞ?
予感?
悪寒?
何と表現するべきなのかは分からないが、とにかく何かを感じて起きたんだ。
そして、オレは自分の勘は信じる主義だ。
自分の寝床からこっそりと這い出すと、周囲の気配を感じるために感覚を拡大する。
「鶏小屋か?」
オレは即座に足音を殺しながらも駆け出す。
ちっ、まだ上級魔法の転移が使えないのがもどかしいぜ。早くレベル挙げないとな。
鶏小屋にたどり着いたオレが見たものは、一頭の獣だった。
薄い茶色の体毛に包まれた体。
とがった鼻先。
金色に光る目。
「はん、まさにキツネ色ってか」
そう。
この北の大地、北海道における最強生物の一角、「キタキツネ」だ。
北海道にはこの国「日本」における最強の野獣「ヒグマ」が存在するため、その危険性を軽んじられがちだが、中型・小型の生物にとってはまさに天敵。
蛇に睨まれた蛙とはよくいったものだが、この状況は狐に睨まれた鶏か。
「へい、そこの狐様よ」
気配を消して近づき、声を掛ける。
「何奴だ。このオレに気配も感じさせぬとは?」
「驚かねえんだな」
「いや、驚いてはおるさ」
余裕綽々の顔だ。
いや、実は表情見てもわかんねえんだけどな?
「ましてや、このオレに接近を気づかせぬほどの手練れがお主のような子猫であったのだから、なおさら驚きよ」
きらりと光る瞳がオレを見据える。
人間の時ならば何とも思わなかっただろうその瞳に、一瞬呑まれかける。
これが狐様のプレッシャーか。
「危ねえ危ねえ。さすが狐様だわ」
「ほう、オレのプレッシャーに耐えるかよ。面白い子猫よな」
「そう思うなら、そこの鶏たちは見逃してやってくれよ。ウチの大事な家族なんでな」
「トラ吉さん!」
視線がオレに向いたことで、鶏たちも正気を取り戻したようだ。
フッ。
今のオレ、超格好良くねえ!?
鶏たちの視線がアツいぜ!!
「ふ・・・。別に此奴らを捕って食おうとはハナから思ってはおらん。だが、お主は面白い。このあたりでオレの目に適う奴がいたとはな」
奴が値踏みするようにオレを見る。
オスにじろじろ見られるのは気色悪いな!
「どれ、子猫よ。少々遊んでやろう。なに、命までは取らん」
「トラ吉さん、やめて下さい! 狐と戦うなんて無茶です!」
「なあに、大丈夫だ、ピー子。ちょっと遊んでもらうだけさ」
「ふっふっふ。いい度胸だ、子猫。着いてこい」
くるりと背を向けて歩き出す狐様。
オレは黙ってそのあとを着いていく。
家の裏手の収穫の終わった畑に着くと、奴が振り返ってオレを見る。
「さて、殺すつもりはないが、誤ってしまうこともあるやもしれん。先に詫びておこう」
「詫びはいらねえよ。そんなことにはきっとならねえぜ?」
にやりと笑ってやる。
その刹那。
「くっ!!」
慌てて横っ飛びに躱すオレ。
危ねえ。
何が殺す気はねえだよ。
「良く躱したな」
「おいおい。今のはかなり殺る気の攻撃じゃねえのか?」
「そんなことはないぞ。まだまだ本気にはほど遠い」
おいおい、正直狐様舐めてましたわ。
いかんな、オレもいつまでも元の感覚でいちゃあダメだな。
「そうかよ。じゃあ、オレも本気の半分くらいで行かせてもらうかね!」
体内の魔力を高め、自分に能力上昇系魔術を掛ける。
全ステータスアップに加えて、暗視と望遠視力もだ。
「大盤振る舞いだぜ!」
今度はオレが先手を打つ。
素早くステップを踏みながら奴に向かって走る。
奴の正面1mくらいのところから、左側面に回り込むように高速ステップからの右回し蹴り。
「速い!」
奴が目を見張る。
だが、オレの一撃はぎりぎりのところで躱された。
「ちっ、今のを躱すかよ。どんだけ凄え動体視力と反射神経してんだよ、アンタ」
「それはこちらのセリフだ。少なくとも、この地域のどの猫にも今のような真似はできまいよ」
改めて正面から対峙するオレと狐。
「子猫。名は何という?」
「人に名前を聞くときは、自分から名乗るのが礼儀ってもんじゃねえのか?」
あくまで強気で押す。
喧嘩ってのは引いた方が負けだからな。
「くっ・・・くはは!」
「何か面白かったか?」
「いやさ、そのようなセリフを聞くのはいつ振りかと思ってな。それもそうだな、オレの名前はコン蔵。金狐のコン蔵よ。覚えておけ」
「コン蔵さんね。金狐ってのは字みたいなもんか?」
「そのようなものだ。オレが自分で名乗ったわけではない」
字持ちか・・・。
道理で強いわけだぜ。
この近辺ではおそらくほぼ最強の獣ってことだな。
さすがにヒグマには及ばんだろうが。
「オレはトラ吉。今は字は無い。この清水の家に厄介になってるただの虎猫だよ」
「トラ吉か。外見通りの良い名だ。では、もう少し遊んでやろう」
「こっちのセリフだ!」
ステップからの右フック、左後ろ回し蹴り。
そんな連続攻撃もコン蔵にはあっさりと躱された。
その後もオレは果敢に攻め続けるが、ヤツにはぎりぎりのところで当たらない。
「ちっ、まだまだ差がデカいか!」
「なに、小童にしては十分よ。オレでなければ疾うに喰らっておるわ!」
ヤツの声に楽しげな響きが混じる。
「どれ、今度はこっちから行くぞ」
鋭い踏み込みからの右ストレート。
オレも上昇したステータスにモノを言わせて躱す。
「甘い甘い!」
オレの避けた先に置かれていたヤツの尻尾が顔を撫でる。
今のがもっとちゃんとした攻撃だったら?
「く、くそっ!」
オレは元々魔術師だ。近接戦闘は得手じゃない。
だが、オレだって「伝説の大魔術師」とまで呼ばれた男。得手ではないとはいえ、その辺にいるショボい戦士なんかに負けるような腕でもない。
間違いなくヤツは一流だ。
「スピードも、そのなりにしてはパワーも十分。だが、獣同士の戦いというものを知らんようだ」
「悪かったな。こちとら元は人間で、しかも魔術師だ。獣同士の近接戦闘なんて知るわけねえだろう」
「よく分からんことを言う。元は人間? 魔術師? なんだそれは?」
「こっちの話だ。今はただのトラ吉だよ」
「まだ何か隠しているのか。ならば見せてみろ!」
ちっ、好き放題言ってくれやがるぜ!
「わかったよ。そっちこそ死んでも文句言うなよ!!」
夜なので派手な魔法は使えない。火とか雷だと人目に付いちまうからな。
となると風か。
「風よ!」
オレの周囲に渦巻いた風が、一塊となってコン蔵に向かって飛んでいく。
「ぬお!?」
気配を頼りに魔術を躱したヤツの顔から初めて余裕が消えた。
さすがにこんな攻撃はされたことねえだろ。
「面妖な術を使う。トラ吉、お主化け猫の類か!?」
「違う。オレは魔術師だ。まぁ、この世界の感覚で言えば化け猫で間違いねえさ」
「面白い、実に面白いな! トラ吉よ、お主、オレの弟子にならんか?」
「はあ!?」
なんだか変な話になって来やがったぜ?
お読みいただきありがとうございます。
こんな話になるはずではなかったのですが、どうしてこうなった!?
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