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乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第2章 戦国乱世!!
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第8話 義昭公

◇=場面変更

おれたちは、どうにか近江膳所まで逃げ延びれた。


「ともかく、上様の御舎弟様は御無事か…?」


幽斎さんのぼそっと発した言葉に皆が頷く。


上様の弟は、後の足利義昭だ。歴史的にみても無事なはずだ。


「幕臣の方々とお見受けいたしまする。」


おれたちの前に男があらわれた。皆、一斉に身構える。


「いや、それがし、怪しいものではござりませぬ。近江甲賀の和田惟政様の使者にございまする」


「和田殿のか!」


京極さんがうれしそうに声をあげた。和田惟政は。形式上は幕臣であり、近江甲賀の豪族だ。


「それで、和田殿がなんと?」


「はっ。わが主の書状をご覧くだされ」


そういう使者顔はかなりうれしそうだ。


その手紙を読んでいる幽斎さんが、震えている。

そして、叫んだ。


「みな、喜べ!和田殿が、御舎弟様の覚慶様を匿っておられるそうだ!」


おれたちが、はしゃぎまわったのは、言うまでもないだろう。



甲賀郡の和田さんの屋敷にきた。すでに、覚慶様は還俗し、名を義昭と改めたらしい。


きた。足利幕府最後の将軍、通称、お手紙将軍義昭。ほんと、どんなんか気になる。うん。ほんと


「よくぞ。ご無事で。上様がお待ちでございます。」


部屋の前には、和田さんがいた。そうか。もう上様は、義輝公じゃなくて、義昭公なんだ。なんかおれは寂しいような、よくわからない、なんともいえない気持ちになった。


「お入りくだされ」


和田さんが襖をあけ、おれたちは部屋に入っていった。


「おお。よく来てくれた。」


前にいるのは、長烏帽をつけ紋付き袴をはき、着物を着ている、丸顔で、耳がでかい人がいた。


これが、足利義昭公か…


なにか、柔和な印象を受ける。


「わしが足利義昭だ。すまぬが、それぞれ名を名のってくれまいか?」


みんな、それぞれ名を名乗っている。おれも名乗ろうとしたところ、


「いやお主は知っておる。山田太郎左衛門信勝であろう?」


と、義昭公がいったもんだから、おれは驚いて


「は。お見知りおきくださり、恐悦至極、しかし何故?」


と、慌てて平伏した。


「ハッハッハ。畿内では将軍足利義栄の名で、そなたの首に1万石の懸賞がかかっておるわ。」


「えー!なんで!?」


おれはもっと驚いた。なんでおれに!?


「信勝。それはお主が一番槍だからだろう。」


佑光が、ふんと鼻を鳴らした。


「ハッハッハ。おそらく松永、三好は、幕府に巣くう奸臣を倒したとしているようですね。だからこんな莫大な懸賞を」


と、冷静に光秀。


「よいか?皆」


そういや、義昭公の話の途中だと思いだし、おれは平伏する。


「わしは、義栄を倒す。だが、それは室町のためではない。」


「と、申されると?」


幽斎さんが聞く。


「義栄を担ぐ三好、松永は私利私欲で兄上を弑逆した。これは許せん。だがわしはそれと同じくこの室町も許せん」


義昭公はさらに言う。


「この日ノ本を戦乱にまきこむ幕府などいらん。わしは、わしの代で室町に幕をひく。そしてしかるべき人間にわしは将軍職を譲る。」


…え?義昭公ってこんな物わかりがいい人だったっけ?このお方も光秀と同じく想像とちがうがな。


「みな、それでいいと思うならわしについてきてくれ」


おれは、決意する。


「はっ。拙者は義輝公より戦国の世を託されました。まさに上様のお考えこそ、泰平への近道かと」


「おれも山田と同意見ですぜ。」


「それがしらは上様についていくだけです。」


幽斎さんが、頷きながら、言う。


「左様か。礼をいう。」


義昭公は満足げに頷く。


「されば」


光秀が一歩進み出る。


「そのしかるべきお方のため、少しでも天下の一部を平定すべきかと。」


「それはそうだな。しかし、どうやって?」


「は。まず、われらは越前朝倉に参りましょう。」


「朝倉ですか?しかし上洛するとはとても思えませんが?」


佑光が、疑問を言う。おれもそう思う。史実でも朝倉は動かなかったし。


「いえ、朝倉殿には上洛ではなく、若狭攻めを頼むのです。若狭武田の兵力は二千程度。朝倉で攻めれば踏み潰せるでしょう。戦の終盤、上様の名で降伏を促すのです。武田は受けるでしょう。そこで」


光秀の右目が鈍く光った気がした。


「降伏を受けたのは足利だ、と強弁し若狭を横領するのです。」


まさに朝倉をいいように使った黒い策だ。この光秀は常識人でもなんでもねえ。


「しかし、そのようにうまくいくかの?」


和田さんが聞く。


「ええ。いくでしょう。朝倉なんぞ知恵はありませんからね」


おれは、光秀さんの顔を見た。


謀反人ってこんなもんなんかな…


「よし、いこう。越前へ。みな、ついてきてくれ」


義昭公は立ち上がった。

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