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乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第1章 ここは戦国!!
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第7話 いざ、参らん

【】=視点変更

起きてほしくないものは、起きてしまうもの。それは戦国でも、平成でも変わらない。


永禄8年5月19日。夜


けたたましい音と共におれは飛び起きた。おれは外をみる。間違いない。三好軍だ。


おれたち幕臣はすぐに殿中に集まった。


「謀反か。いかなる者のくわだてだ?」


上様が大声で叫ぶ。おれが


「はっ。三好三人衆および松永とみえます」


「上様、脱出を」


佑光が立ち上がる。


「まてい。佑光。生き延びるのはうぬらだけだ。わしはここに残る」


「なにを仰いますか!上様こそこの日ノ本にふさわしき男!」


幽斎さんが絶叫する。


「太郎左!敵兵はいくらぞ!」


「およそ3千と見られまする。」


「うむ。」


上様は、叫んだ。


「わしら全員がおちればすぐに追っ手が差し向けられるであろう。そうなれば主らも死ぬことになる。だが、ここでわしが時を稼ぎさせすればお主らは生き残れる!」


幽斎さんが、上様の袴をつかむ。


「いや、それがしたちご家来衆が討ち死にの間にお退きを!」


「ならぬわあ!」


上様は幽斎さんをけりあげた。


「わしはうぬら優れた家来を持ちながら戦国をまとめあげることならなかった。わしは将軍失格じゃ。だがうぬらさえいれば必ずこの戦国の世を収めれると信じておる。」


上様の顔は、晴れやかだった。


「御意。上様、黄泉でお待ちを。」


おれは泣きながら、しかしそれを上様にわかられないように、言った。言うしかなかった。


「よう言った。では、おちろ。」


もう、だれの目にも迷いはなかった。


「光秀!火縄銃はもったか!?」


「はい。」


「おれの槍の腕をみせてやるぜ!」


慶次が、長槍を担ぐ。


「では、上様!われらの働きみていてくだされ」


「あいわかった。では」


上様はおれたちに背中を向けた。


「いざ、参らん」


上様はそれだけ言った。おれたちは走り出した。涙はもう止まっている。それぐらいの覚悟ぐらいおれにだってある。


おれたちは、裏門にさしかかった。


どうやら、三好一党はここにまで兵を回していたらしい。百程度の兵がいる。


「いたぞ!幕臣だ!」


そいつらはうれしそうに叫びおれたちに向かってくる。


おれは、言うまでもなく、殺人なんかしたこともない。だが、上様はおれたちに戦国を収めることを託されたのだ。もう気持ちはかわっていた。


おれは刀を抜いた。


「おれの名は、足利幕臣、山田太郎左衛門信勝!

全員、返り討ちにしてくれるわ!」


おれは叫んで飛びかかった。おれは刀をふり一人を切り殺した。


「へっ!やっちまえ!」


ほかの雑兵に周りをかこまれるが、そこに火縄銃の弾がとんでくる。


「フハハッ。的がたくさんありますね。」


ひるんだ兵士らに、槍を持った慶次、刀をもつ幽斎さんが飛びかかる。そこに佑光が大声で


「散れい!散れい!われらは幕臣ぞ!わしらに手向かうとは族滅ぞ!散れい!散れい!」


と、叫び、兵らをおびえさせる。その間おれは一心不乱に刀をふる。


どれくらいたっただろうか。ついに兵らが逃げ出した。


「いくぞ。追っ手がくるまえに」


おれたちは洛外へと走り出した。


【永禄8年5月19日

足利義輝】


いったか。わしは畳の上にいままで使うことなき名刀を突き刺した。この幕府を再建するには必要なきものであったが…


わしは自嘲気味に笑った。


将軍たる権力もなにもなかったが、ただこの手だけは、足利幕府13代将軍としての覚悟だけはあった。


今は是非もなし。


ふすまが倒され、雑兵共が乱入する。


「公方と見受けられる!その首頂戴!」


「だまれい!下郎がああ!」


わしは刀で、その雑兵の頭を一閃した。


「やらんわ!うぬら下郎にわが首は!弾正!であえ!であえ!」


わしは叫びながらまわりの兵らを撫で切りにする。


初めてつかう名刀どもの切れ味は大変すばらしかった。


「ぬん!」


わしは廊下に躍り出て、雑兵どもを切りまくった。


「鬼じゃあ!鬼じゃあ!」


雑兵は泣きながら逃げる。


「逃げるなあ!」


わしはその背中を一閃する。


しかし、そこまでであった。


パン!パン!


「ぐっ!」


火縄銃だ。さすが松永弾正ぬかりはないか。


わしは、脇差をだし、欄干にのりだした。多い尽くすほどの三好勢。それらがわしの登場で一気にざわつく。


「静まれい!わしの、征夷大将軍の切腹をみせてやる!」


すぐに三好勢は静まる。


わしは一気に腹をかききった。


「辞世を言うぞ!

五月雨は 露か涙か 不如帰 我が名を上げよ! 雲の上まで!」


わしの意識は遠くなる。だが、わしは、日ノ本を託すべき人材に、会えた。これは決して無駄ではないだろう。きっと。


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