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乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第6章 坂祝!!
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第62話 三河武士

【元亀四年 斎藤内蔵助利三】


わからぬ。盛り上がった丘の上に配された、わしら明智、丹羽、細川、滝川、勘九郎、源五郎は

本当に前衛の後詰なのか?


「殿」


じっと、地面を見つめている殿にこれを聞いてみる。


すると、殿はこの人にしては、穏やかな微笑を携えた。


「武士の嘘は武略といい、僧の嘘は方便。百姓の嘘は可愛きものなり―」


「つまり、後詰とは嘘にござりますか?」


「私は何も言いませぬ」


そういって、また地面に目を落とした。


【元亀四年

柴田修理亮勝家】


相手は武田四天王、内藤修理亮か。相手にとって不足なし。


馬は入らぬ。相手を切り伏せるには少々、骨が折れる。


「下馬にござるか」


小姓の毛受勝助勝照が尋ねる。


「ああ」


「さすがは殿にございます」


「ついて参れ」


内藤に勝つには、出し惜しみは禁止よ。


一番槍はわしじゃ。


「うおおおお!」


槍を向かってくる雑兵に刺し、地面に叩き付けた。


「我こそが鬼柴田よ!!」


織田家最強の部隊は、柴田隊ということを

世に示す。


【元亀四年

高山右近助重友】


なぜ、わしは山田大隅守を殿と呼ぶのか。


わしと殿の関係は寄親と寄子。主従ではない。


いや、初めは幕府におもねるためだったのだが。


だが、最近は違う。いや、どこから違うくなったのか。


わからないが、ただひとつ分かることは、

最近は殿のことは殿としか呼べない。


人間として大きく感じるのだ。


わしは、胸元の十字架を握り、目を瞑る。


神とはなんぞや。人とはなんぞや。


いや、それを殿は見せてくれるのかもしれぬ。


戦国大名、山田大隅守信勝の策は外れない。

わしはそう信じている。


急造の包囲殲滅作戦。必ず成功させる。させてみせる。


「いそぎ、右方向に下がる準備を致せ!気付かれるなよ!」


わしとて、武士よ。神に魅せられたな。


【元亀四年 徳川三郎信康】


よく分からぬ人物が二人。


一人はわしの義父上の上総介信長。


何を考えているのか、いや、朧気ながらわかるのは、深くそして理解できないことを考えているのではないかということだけしかわからない。


もう一人は、実父の三河守家康。


みてくれは、狸のようにお腹が出てきてはいるが

徳川家初代当主であり、その徳川家の前身の松平家を三河、遠江の太守にまで押し上げた。


だが、家臣からの扱いが散々だ。


前なんかは、平八郎に掴まれて


「殿、ちょっと黙れ」


と言って、奥に引っ張っていった。


わしは、こういう扱いを不思議に思い、守役の高力新三に聞いてみると、新三は大笑いした。


わしは、ムッとして聞いた。


「なにが可笑しい」


すると、新三はまだ笑いながら


「若、それが三河武士というものにござるよ」


わしは、新三がわしをバカにしたのかと思ったが、すぐに考えを改めた。


新三は、人をバカにするほど、曲がった性根はしておらぬ。


わしは、自分の城である岡崎で、そこの武士を観察し始めた。



目を凝らして見ると、ようわかった。


純粋なのだ。こやつらは。


愚直なほど忠義を尽くす。ある種の土臭さがきやつらにはある。


それが好きなのだ。


わしも、こいつらと共に戦国を駆け抜けていきた

い。


父上を見ると、いつもの癖で爪を噛んでいる。


「本多殿、苦戦!」


「ううむ……」


「父上」


間違いない。


賭けるべきなのだ。


「本多殿の援軍に行かれませ。父上が出ればこそ

山県を討ち取れまする」


「だがな……三郎。だれに正面の赤備を任せるのじゃ」


「拙者にお任せを!」


わしは、大声で父上のもとに詰め寄った。


「……三郎がか!?」


確かにわしはまだ15歳で初陣。だが、三河武士なのだ。この徳川のため、命を捨てる。


「若に任せてもよろしいかと。拙者がつき申す」


筆頭家老の酒井左衛門尉忠次が歩み寄る。


「相わかった。三郎、やるからには勝て」


ひらりと父上は馬の上に乗った。


「かしこまって候」


そのまま、馬を駆け出させて行った。


「左衛門尉」


「はっ」


「わしは、どう写っておる?」


「将としてはいささか無鉄砲。失格ですな」


うっ。直言致すなよ。


「だが、三河武士にあるべき姿かと思いまする」


それを聞きたかったのだ。


「では、行くか」

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