第6話 もう一度、足利の世を
おれと佑光は新たに幕臣にした光秀と慶次を上様に目通りさせた。
「ほう。明智十兵衛。道三の爺が十兵衛というガキを自慢したことを覚えているぞ。これからは余のために励んでくれ」
「それがし、すでに道三様の謀の才を凌駕いたしました故、存分にお使いなされよ。」
「ガハハッ。言うわ。」
上様は上機嫌だし、光秀は不適ににやついている。
「前田慶次郎利益。そなたは傾気者らしいの。」
「はっ。傾気だけでは上様にも負けませぬ。」
「そうだな。その才でこの乱世を照らそうぞ。」
「はっ。」
慶次は、案外おとなしかった。
「最後に、太郎左。佑光。」
上様は、立ち上がり、数歩歩きおれと佑光の肩に手をかけた。
「よくぞ、これほど優れた人材を推挙してくれた。礼をいう。大儀であった。」
「は、ははー。もったいなきお言葉」
上様が、手をかけてくれてまで感謝してくれたことに、おれは感動したし、多分佑光もそうだと思う。
「では」
上様が、上座に戻って、言った。
「左京大夫、それに嫡子義興が死んだ今、幕府の権威をます機会だと思うが、いかに?」
左京大夫とは、京に三好政権を打ち立てた三好長慶のことだ。
「さすれば」
一歩、前に出たのは幽斎さんだ。
「今こそ諸大名に上洛要請をいたし、畿内の敵を討ち果たすべきかと。」
「しかし、松永ずれがどう動くか」
こう発言したのは名家の京極高吉さんだ。
でたな、松永弾正。おれは、まだ見ぬ梟雄を思った。このままでは、その梟雄に、上様は殺されてしまう。おれはこの上様に死んでほしくはなかった。なんというか、別に歴史が変わってもいい。それぐらいこの約半年間で、上様が大切だと思っていた。
なんというか、この人がいきていればもう一度足利の世が来ると思う。その世がみてみた、とも思う。
「上様、よろしいですか?」
「なんだ?申せ。太郎左。」
「今、この天下で松永、三好に勝てるのは尾張の織田上総殿しかございませぬ。」
「織田?ああ、今川治部を討ち取った男か」
そう。そのときの信長、織田上総介信長はこれぐらいしかの知名度しかない。
「フハハッ。よいいところに目をつけましたね。」
光秀が扇子を口にあてながら笑った。
「へ。あのうつけ殿がねえ」
慶次はなにかおもしろそうに笑っている。
「よいところ、とは、明智殿も織田殿に目をつけておられたのですか?」
佑光が、光秀に身を乗り出して聞いた。
「ええ。上総殿の前では松永も、三好も者の数ではございませぬ。」
「おお!左様か!」
「しかし」
光秀は、ぱしっと扇子を閉じた。
「かの男はこの室町に終焉をもたらしましょうぞ」
この一言におれたちは絶句した。現に信長は室町幕府を滅ぼす。だが、それは将軍が義昭だったからだ。
「いや、上様がおられれば、織田上総殿もそのようなことにでられないでしょう。」
「フハハッ。頼るか頼らざるかは上様次第で。」
おれは上様のほうを向いた。上様は迷ってる風だったが
「わかった。光秀の申す通り織田上総が室町を滅ぼすものであったなら、わしがこの手で滅ぼそう。」
「では、すぐに織田殿に使者を」
「いや、上様お自ら美濃へでむきなされ。」
「なにをいっておるのだ!信勝!」
「いや、松永は間違いなく上様のお命を狙っている。だからだ!」
「いくら松永といえども、そんな真似は!」
佑光が、狼狽えている。
「松永弾正を甘くみんじゃねえ!」
「たしかに、松永は油断ならぬ男だが、まだ左京大夫が死んで三日。まだ喪に服さねばなるまい。そんなときに将軍が京よりいなくなるなど、あり得ぬわ」
上様の一言でこの評定は打ち切られた。