第43話 武田、撤退
おれは、義昭公の命令で、池田山城に帰った。帰り際、家康と握手して
「次こそ必ず」
「ええ」
と、やり取りをした。
さて、山田家の所領も40万石、1万5千の兵を率いる身か。
家臣の進退も決めなくてはな。
◇
「お呼びですか」
目の前で村重が平伏している。
「おお。信濃。花隈に城を築け。築いたら、そこ周辺3万石をお前に一任す」
「拙者を城主に!」
「ああ」
村重は、にやりと笑って退出した。
……ぜってえ、なにか考えているよな。
花隈は播磨と摂津の境にある要所だ。ここに城を築けば、おれの摂津支配も磐石だ。
「ときに、祐光」
「なんだ?」
「てめえ、さよ殿と夜伽しまくってるらしいな」
「真面目な話だと思ったわしがバカだったわ」
はあと祐光はためいきをついた。
「変態軍師が!ぶぁ~か」
おれがあっかんべーをしながら言ってやった。
「てめえこそどうなんだよ」
「ああ!?おれはそんなにやってねえわ!」
「つまり、嫉妬か」
ぷ、と祐光は笑っている。んだ、この変態軍師。
「お犬様は姫君なんだよ。浪人あがりのおれがばんばん手だせるもんじゃねえんだよ」
「40万石の大名が情けない」
盛大なため息をつくだけでは、この変態軍師祐光は飽きたらなかったのか、おれを哀れむような視線を向けてきた。
「今からシケこんでくる!」
「勝手にせい」
おれは、ズカズカとお犬様の部屋の前にいき、
ふすまを思いきり開けた。
「信勝様!いかがいたしましたか!」
驚いたお犬様かわいい。でも驚いたお犬様鑑賞会じゃないんだ。目的は。
「犬!夜伽すっぞ!」
ぽかんとしたお犬様が一言。
「まだ……お昼ですが……」
「失礼しました!」
おれはダッシュで自分の部屋に戻った。
あー。そうだ。よく考えてたら昼からシケこむとかありえんわ。うわ、恥ずかし。おれが変態じゃん。おれはうずくまりながらジタバタした。
「殿!」
「んだ、長盛!」
長盛がぜいぜいと息を挙げながら入ってきた。
「武田軍、駿河で一揆が起こったため、撤退しました!」
「よっしゃあ!」
おれはグッとガッツポーズをした。
聞けば、元今川家臣に、農民、一向衆まで反乱をおこし、今、駿河は世紀末な状況らしい。で、これに北条も氏真を担いで、虎視眈々と駿河を狙っているらしい。
さすが、本多正信。こんなんどうやったらこうなるんだよ。
【元亀二年 下間刑部頼廉】
「よろしかったようですな」
「なにがや」
胡座〈あぐら〉をかきながらボリボリと煎餅を食っている上人はきょとんとした顔をしている。
「山田が徳川の援軍に行っている間に、失地を回復しないで。武田は退きましたな。」
あー、そのことかいなーと、上人は天井を見つめた。
「天満、大和田なんざ、とっても銭にならんやん」
「銭ですか」
「そう」
上人は何を思ったのか、懐から銭を取りだし、床にばあとばら蒔いた。わしは袴についたそれを払う。
「石山本願寺の銭は、大坂の交易や。その点信長は最もよき相手」
「ほう」
わしは、驚いた。打倒信長に心血を注いでいる上人とは思えぬ言葉だ。
「信長は盗った領地の関所を廃止し、楽市楽座を実施し銭を回す。で、商家を増やし贅沢させ銭をおとさせている。しかも、信長は茶器を買い漁っとうやろ?せやねん、茶器の価値を高めて、金持ちに買わせるためや。でさらに銭が回る」
さらに上人は、銭をまいた。頬にあたる。
「信長は、銭を銭を生むために銭をまいてるけど、わしらは貧しい同胞はんらを助けるために銭をまいとう。だから自ずと差がでるんや。だから、戦はそうできん。わしらが欲しいのは天下やのうて信長の首や」
「極楽に導くためですかな?」
「せや。信長は、ほっといたら地獄行きや。せやからわしらが極楽に送ったるんや」
「で、本題に参りますが」
「お?なんや頼廉」
わしは、キッと上人を睨む。上人は、おどけながら、よろけた。
「なぜ、駿河で一向衆が蜂起しているのでござりますか?」
ああ、と上人は、ストンと座り、頬杖をついた。
「おもんない話やけどな、わしじゃあないねん。
どうやら、わしが統率できる同胞はんは石山だけのようや」
「まあ、上人は石山にしか興味ないように見えますからな」
「そうやねん!ずっと一緒に遊んどう同胞はんのほうが、情沸くのは当たり前やろ!」
キラキラとした目でみられた。変だな、皮肉を言ったつもりだったのだが。
「頼廉、外出るで。供せえや」
「はっ」
上人は、ぴょんぴょん跳ねながら、外にでていく。わしは、普通に歩いていくが。
「上人はーん!」
「団子食っていきますかー?」
「おう、あんがとー」
上人が出るだけで、この歓声。上人はそれにいちいち手をふったり、声かけたりしている。
「で、みんな!武田は退いけどな、信長の首はとれるで!大丈夫、わしとこの横の頼廉と僧兵と、皆の横の同胞を信じよーや!」
この、大雑把なことでも、皆、元気がもらえるらしく、もっと大きい歓声をあげている。
その中に、頼廉はーんという歓声もあった。
なんだか、恥ずかしく、頬をかいた。




