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乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第4章 風林火山!!
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第32話 お見知り置きを

【元亀元年

山田大隅守信勝】


姉川の戦いは終わった。


信長はかれこれ1時間ぐらい

久政、長政父子の首をみつめている。


「小谷をおとすぞ」


信長は、それだけ言って下がろうとしたが、なにを思ったか止まった。


「秀吉」


「はっ」


「大儀」


「ありがたきお言葉」


両手を地面につけ信長を真っ直ぐに見つめている秀吉にはその農民らしさが消え、侍の風格が漂っていた。


「殿、ひとつよろしいでしょうか」


「申せ」


信長は、顔を横に向けた。


「お市様をどういたしましょうか」


「殺せ」


間髪入れず答えた信長がなにを思ったのかおれにはわからない。


【元亀元年 織田上総介信長】


小谷は落ちた。われらが囲んですぐ火の手があがった。


「殿、浅井の使者が参っております」


そやつは、市の娘の、茶々、初、江をつれておった。


「市は」


「……ご自害なされました」


ううっと使者は肩を震わせている。


「三十郎」


「は、殿」


弟の三十郎信包を呼ぶ。


「この娘どもの世話をしろ」


「はっ」


「三十郎」


退出しようとする三十郎を呼び止める。


「殿、なにか」


「……いや、なんでもない。下がって休め」


一礼して三十郎は退出した。


兄と呼べ、といいそうになったのをすんでのところでこらえた。


われは手を見る。


この手はなにをつかんだのか。


爺、信行、母上、市、長政……


失ったものならはっきりわかる。


爺は、諫死などではない。今川方から流された

平手政秀、久秀父子謀反の噂を信じたわれが、家中に内々に平手父子討伐を命令。そこに現れたのが、腹を切った爺。われは理解した。


爺は無罪と。


爺は言葉を継ぐ。


『たしかに謀反を起こせば勝機はあり申した。が、拙者は諫言による死を選びました。それは

世を多い尽くさんばかりの狂気と細を穿つような繊細さ、これらを兼ね備える若を信じたからにほかなりませぬ」


われはずっと絶叫していた。


『若……若ならば天下をとること叶いまする……』


そう言って息絶えた爺。


わが命など、塵芥ごときの重みよ。しかしこのように大大名となっても、それは変わらない。


われは何者だ……


それを答えることできるものは、ない。


【元亀元年 山田大隅守信勝】


久しぶりに高槻に戻ったおれに、長盛が走ってきた。


「殿、ご朗報が」


「ん?なんだ?」


「これを」


そう言って、長盛が持ってきた手紙を見る。そこには、池田家の家老が池田家を裏切る旨が書いてあった。


「これは……!?」


「は、調略済の荒木信濃を含め、家老全員分です」


これ、すべて村重か……?


「おそらく、信濃守に負けた九衛門では未来がないと思った家臣どもが決めたのではありませぬか」


長盛はおれの疑問が分かっていたみたいだ。


「そうか。池田領はいつでも切り取れるな」


「仰る通り」


これじゃあ家老全員を童顔野郎の与力にしなくちゃならねえじゃねえか。


ま、秘策はあるが。


「ありがとう。長盛。それとお犬様をよんできてくれ」


お犬様のこともな。


「信勝様……お呼びですか?」


「うん。その、えーと、あれだよ」


やばい。すげえ言いにくい。


「お市様のことは……残念だった」


お犬様はその大きい瞳を閉じた。


「姉上も武家の娘。覚悟はできていたでしょう……」


これ以上はなにも言えないわ。


「ああ」


おれは寝室に入った。



いくか。池田を滅ぼし、その後、伊丹氏を滅ぼす。そして北摂津の王となる。


「殿、兵糧、武具、ことごとく整いましてございまする」


「さすがだ。長盛。では留守を頼むぞ」


「御意」


おれは兵の前にでる。茨木勢とあわせて兵2千。


「茨木殿、この拙者の拙き采にございますが先陣をお願いいたしまする」


「いえ。その素晴らしき采を後学にさしていただきまするぞ」


茨木殿は、おれに一礼する。


「祐光!軍師を任せる。あと、最近、さよ殿といちゃいちゃしてるらしいな。うらやましいぞ。爆発しろ。あ、おれにも嫁さんいたわ」


「なに、いってんだ。おまえは。ま、軍師は任せ

ろ」


どっと笑いが起こる。


「慶次!先鋒右翼を任せる!無茶すんなよ」


「無理だわ」


また笑いがおこる。


「右近!次鋒を任せる!がんばれ!」


「我らに幸福がありますことを。アーメン」


右近は右近だ。


「で、後陣はおれだ!いくぞ!逆臣の池田九衛門知正を討つ!」


「はっ!!」



一戦ぐらいすると思ったんだがな。うん。一戦もせずに、池田山城は内部の裏切りによって陥落。まわりの豪族共もそれにならって降伏。おれは速効で領土保証の朱印状を発行。一の一文字の判子を押してばらまく。


「殿、九衛門の首にございます」


村重が、片膝をついて首桶を差し出す。


「あけよ」


「はっ」


村重は首桶の蓋をとる。


池田九衛門知正ねえ。


初めて見る。若いな。いや、おれより上だが。

村重によって担がれなかったらどういう人生を送っただろうか。いや、やめておこう。


「この逆臣の首を池田山城下に晒せ。ほかの池田一族で、当家に服従いたすものはおとがめなしだ。」


「はっ」


「それと、人質は無用」


「まことにございますか!」


おれは微笑みながら頷く。


ふん、おまえら、今だけだぞ。喜べるのは。


池田山城に入ったおれは、池田家臣共から挨拶を受けている。


村重が代表して、挨拶をする。


「われら、一同、山田家の家臣にございまする。

お見知り置きを」


ざっと、平伏する絵図は、壮観だ。


さすがは、北摂津最大の家だ。ま、高槻、池田、茨木を抑えたおれが、今では最大だが。


「では、これより下知を下す。」


「はっ」


おれは、用意していた手紙を読む。そこには家老共の家臣の一部、即ち、陪臣の名が書いてある。


「以上を、わが直臣とする。なお、土地はそのまま」


「なっ……」


ざわつく。そりゃそうだ。家臣を引き抜かれるんだから。ま、その交換条件だからな。人質は無用というのは。


「文句があるものは弓矢に問いたまへ。上様譲りの刀をもって成敗してくれる」


「文句など、と、とんでもございませぬ。もしそのようなものが、あ、ありますれば!某に討伐を命令してくだされ!」


荒木村重が汗だくで答える。まあ、お前はその弓矢でおれに負けてるからね。


「よう、申したわ。信濃。ほかのものは!」


おれが目線をあげる。ほかの家臣共は平伏している。


まったく、疲れた。虚勢をはるのは楽じゃねえ。

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