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乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第3章 元亀争乱!!
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第31話 死出の旅

【元亀元年 山田大隅守信勝】


ここまで、現代人の知識と運と度胸だけできたおれには、推測にすぎないが幽斎さんには勝算があるんだと思う。


敵のほとんどは農民だ。それに2百でいけば敵も油断する。そこを散々に叩けばいい。おれたちも

弓、鉄砲で援護し、敵が崩れたらそこに総攻撃すればいい。


頼むぞ、慶次……


【元亀元年

前田慶次郎利益】


「へっ!こんな少数とは笑止!仏敵め!地獄におちろ!」


僧兵の坊主頭が光に反射し、その下品な笑みしかみえない。


「あ?てめえらなんざ……」


おれは槍で坊主をつきふせ、それを投げる。


「俺だけで十分なんだよ!」


馬で敵の群れに飛びかかる。おれたち2百はひとかたまりとなってその群れに突撃する。


後ろから、弓なども飛んできて、おれたちを援護している。


津波のように押し寄せてきている敵兵も次々に引いていく。


「これが武士だ!なめるなぁ!」


わあっと浅井軍はもはや算を乱している。

うしろより、ついに味方の兵がやってくる。


総攻撃。


これによってもはや浅井は散り散りだ。しかし奥に、乱れていない部隊がある。


……遠藤部隊か。


馬にのり、この様子を冷静にみている男がいる。


遠藤喜右門尉直経……


あいつを殺す。


馬の尻に鞭をやる。


「遠藤直経!貴様の首、もらったあ!」


槍を降りおろすが、遠藤部隊の馬廻り衆に止められた。


「邪魔だ!のけ!」


「殿の御首が欲しければわしを倒してみよ!」


「前田殿、いきなされ!このものらはわしが相手する」


斎藤殿……


「かたじけねえ!」


敵将の首をとる。なんとしても。


「ふん、震えていんのかい、遠藤さんよ」


なにを思っているのかわからないほど無表情な遠藤にひとつ悪態をつく。


「冗談はほどほどにしろ」


遠藤はそう言うと、槍をこちらに構えた。


「浅井備前守長政が守役、遠藤喜右衛門尉直経、参る」


ざっと、馬をかけてくる。


馬上槍<ばじょうそう>は一撃目がすべてだ。


一撃目をはずせば、馬の制御はほぼ不可能になり、敵の攻撃にうたれる。


これをしのぐ……


遠藤の槍を胸をそらし、避ける。



「もらったあ!」


遠藤の馬は暴れている。あとはその背中におれの槍をいれれば終わりだ。


「おらあ!」


遠藤はすぐさま、馬からおち、ごろごろ回転し、距離をとる。


「っ……!?」


逆に、おれの馬が暴れる。


「しねい」


遠藤は弓を絞り、矢を放つ。


おわれるかよ。おれは、おれは


天下一のかぶきものだ!


「ぬん!」


槍を無我夢中で振り回し、矢をはじいた。


「おらあよ!」


そのままの勢いで槍を投げる。


横目には遠藤の驚いた顔がみえる。


槍が、遠藤の胸にささり、地面に倒れる。

おれは馬からおりて、遠藤のもとに刀をぬいて走った。


「み……ごとだ。名は……!?」


「前田慶次郎利益だ!おぼえておけ!」


「殿……どうか御無事で」


最後の遠藤の呟きを聞いたおれはその首を掻き切った。


「遠藤喜右門尉直経、討ち取ったあああ」


エイエイオー


「よし、織田軍の加勢をするぞ!」


細川殿の声が響く。


【元亀元年

織田上総介信長】


「殿、御無事で!」


権六の大声を聞く。わずか一騎のわれをわかるとはな、さすが尾張の頃からの縁よ。


「馬廻りが長政の攻撃をうけておる。これよりとってかえし、生け捕るぞ」


「……生け捕りにございますか」


わしは無言で頷く。

長政の首は六条河原で斬首して晒してやる。


姉川のほうをむくと、浅井軍が崩れているではないか。


「あれは……」


「ネズミよ」


瓢箪が遠くに見える。


やつめ、部下に死ねと言えるようになったか。


西の方面を向いても、足利が浅井へと攻撃を始めている。次第に軍も集まってきた。


「いくぞ、長政をほふる!」


「はっ」


終わらせてやるぞ。長政。


【元亀元年

浅井備前守長政】


「直経は生きてはいまい……」


西では、足利が攻撃をし、東は木下軍が攻撃をし、ここでは、義兄上が兵を集めている。


「撤退しかあるまい」


「殿は拙者にお任せを……」


一員だ。


「申し上げます!後方で宮部部隊、寝返りました!また、安藤、稲葉、氏家も宮部の寝返りに乗じて、後方を攻撃中!」


包囲されたか。逃げ場などない。


「わが死に場所はここと見えるぞ」


「はっ。ついていきます。」


ふっ。わしにはすぎた家臣だな。


「では、いくか。死出の旅に」


白刃をきらめかし、わしは雄叫びをあげながら

織田軍に突撃した。無数の槍がこちらを向く。

が、もはや関係あるまい。


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