第20話 修学旅行in福井
おれは運がいい。
幽斎さんに拾われて、佑光と出会い、義輝公と出会い、慶次と出会い、なによりずっと想像していた戦国の世に来られた。
だが、おれは今1人だ。
いや、たしかに前には弾正、さらにその前には信長がいるが、いるだけだ。
この2人はもしおれが落馬しても、落武者狩りに殺されても後ろを振り返らずただひたすらに前にいくんだろう。佑光や、慶次、和田さん、京極さん、幽斎さんなら多分立ち止まる。
生きたい。
ただただこれだけが頭の中を廻る。でも、その中でもおれは、右近や長盛、慶次、佑光の顔もちらつく。
おれはこれでもかというほど馬の尻を鞭で叩いた。
「山田、弾正」
信長は、体を前屈みにしながら言う。
おれは馬の上にいるのが精一杯、弾正だけがはっと答える。
「ぬしらを共にしたのは、そなたらは運がいいからよ」
へっ。わかっているじゃないか。大魔王信長。
「走れ!この駄馬ぁ!」
馬はヒヒンと鳴った。
◇
「ここに泊まるぞ」
信長が言う。
もう夜だ。おれは空を見上げる。おれたちの苦難とは逆に空には爛々と星が輝いている。
「けっ。いいご身分だな星っていうのは」
弾正が空を見上げる。
「めずらしく意見があったなおれもそう思うぜ」
「山田と意見が会うとはな……」
けっ、と弾正は鼻をほじり、その鼻くそをおれに向けてはじきやがった。
「汚ねえ!」
おれはその弾正の汚ならしいブツをよける。
「うぬらなにをふざけている……?」
信長が、目をぎらつかせ刀をぬいた。
あの、すいません……
◇
大魔王信長の前でふざけるという、いうなら閻魔大王の前で裸躍りをするぐらいの行為をみせた、おれと弾正は、その大魔王に命じられて、民家に頼みにいった。
弾正は必死だ。
理由はさっき信長が
「泊まれなかったら、平蜘蛛も九十九茄子と同じ運命にあわす」
っていう、大魔王の宣告。茶器なんかどうでもいいおれにとっては、very easyな罰だけど、鼻くそ弾正にとっては、Bad end みたい。
「てか、弾正。おまえその頬があるから、村人怯えて貸さないだろう?」
おれは弾正のそんな傷どうやったらつくんだよってつっこみたくなる傷を指差した。
「男にはやらねばいかんときがあるのだ」
さっきまで、鼻くそとばしをやった男とは思えない発言だ。
「弾正のあほと一緒におったら、なんか気が狂いそうだ」
「おれの台詞だ」
そんなことをいいながら民家の扉をたたいた。
「たのもう」
「はい……わっ」
出てきた女の人はびびっている。そりゃそうだ。夜中インターホンが鳴ってドアを開けると、ヤクザばりのいかつい顔面のおっさんがいたらびびるわ。
「いや、おれたち旅の者なんだ泊めてくれない?あ、馬屋でもいいからさ」
おれが弾正のくそみたいな顔をフォローする。
「米をやるよだから泊めてくれよ」
弾正が腰兵糧を手渡した。女の人は笑っている。
「泊めてくれる?」
女の人は笑いながら頷いた。
馬屋だが……
「われは寝る」
「わしもー」
信長と弾正が寝やがった。てか、目をつぶってすぐ寝るってなんなんだよ。
いや、落武者狩りに注意しないとだめだろ…
あ、こいつらそれをわかって……?
このままじゃおれは寝れない。
信長を起こしたら頭かち割られそうだから、弾正を起こそうと弾正をみる。
刀に手をかけてやがる。
ああ、起こしたら殺すっていう意思表示ね。
山田大隅守信勝、不寝の番決定。
朝だ。小鳥が鳴いてやがる。
結論を言おう。なにもおきなかった。
じゃあ、おれも寝ればよかった。てかなんでこんな命がけの状況で
修学旅行in福井みたいな気分にならんといけないんだよ。
「うーん、よく寝たぁ」
弾正は起きたが、信長は起きない。ちょっとむかついたんで、おれは声色をかえて
「若、朝でございますよ おきなされ」
「う……爺?」
信長目をこすりながら、体を起こした。
信長はきょろきょろと回りをみている。
大魔王信長の弱味を握れたみたいでうれしいぜ。
おれはちょい笑う。
信長は、おれがこんなふざけた真似をしたことに気がついていないみたいだ。
「行くぞ」
信長はそういって、馬に乗りかけだした。
落武者狩りに会わなかったのは、おれたちの豪運のなせるわざだろう。
いけるいける!
おれは決意を新たにして信長の後を追った。




