第2話 この上様は本当に死ぬのか?
将軍に拝謁に向かう途中に幽斎さんを質問攻めにして、ようやくここがどこで、いつなのかがわかった。
ここは京で、永禄7年の12月9日。確か、将軍足利義輝は、「永禄の変」で三好一党に攻められ自害する。つまりおれが今から仕えることになる上様ー足利義輝公はもうすぐ死ぬことになる。
おれのすばらしいプランはこうだ。
永禄の変脱出→信長に会う→義昭を担いで幕府再興→義昭みかぎって信長につく→秀吉につく→東軍につく、結果生き残る。
無論、このまま戦国におるわけでもない。このどこかで現代に帰れたらそれでいい。だが反面、この戦国の世もそう悪くないと思う。
なぜって、この戦国の成り行きがわかっているからだ。それをうまくいけば一国一城の主も夢ではないだろうし。
おれはそう決意すると、幽斎さんが
「ええい、佑光、いつまで黙っておるのだ!」
こう怒ったもんだから、幽斎さんの横の男が
「…沼田三朗兵衛佑光でござる」
と、ぼそっと呟いた。なんか不機嫌だなー。
すると幽斎さんが
「いや、申し訳ない。佑光は上様の直臣に推挙されるお主に嫉妬しているのだ。」
こういうと、沼田さんが
「なにを申されるか!このようなどこの馬の骨かわからぬ男に嫉妬などいたさぬ!」
とか、言い出した。おれはその通りなんだけどなんかむかついたので、
ポカッ
一発殴った。すると佑光は、
「なにすんだあ!」
と怒り、殴りあいになった。そこに幽斎さんが
「やめんか!」
と、怒鳴りおれたち二人を殴ったことでおれと佑光の殴りあいは終わった。
「おれは山田。お前とは違ってなあ…」
と、佑光は自分のことを話し始めた。
まあ、要約すれば、
おれはすごい。おまえはだめ
…いや、もうちょい詳しく言えば
佑光は、元々半家の次男だったらしい。んで、貧しい半家だから、寺に預けられた。それが応仁の乱で親、兄を失い寺にいた佑光だけは生き残った。そこから佑光は勉学に、とくに軍学に励み、それが幽斎さんの目にとまり、細川家に。
そして、「軍学に関しては細川家一。」
という噂を聞いた義輝公が直臣にしたそうだ。
「軍学などしらぬお主なんぞが直臣など!」
「じゃあ、佑光殿、俺に軍学教えてくれよ。」
そういうと佑光は、ちょっとだけ笑って
「厳しいぜ。覚悟しやがれ」
といってきたのでおれも
「望むところだ」
と応じると佑光はハハハッと笑った。おれも笑った。
で、来ちゃったよ。足利館。おれはそこで制服を脱ぎ、袴、上下を着た。
やべえ、緊張してきた。
すると、佑光が柱にもたれかかりながら、
「上様は新当流の達人であらせられる。無礼なことを申して御手打ちにならぬように。ハハハッ」
それだけ言って去っていく佑光の後ろ姿におれは
あっかんべーをした。
おれは、将軍の前にひざまずきながら進み、幽斎さんにいわれた場所で止まった。
「面をあげい。」
野太い声が響く。
「うむ。藤孝から聞いておる。余が、将軍義輝じゃ」
これが剣豪将軍か…。鋭いあごにごつごつした顔。首筋にまで筋肉質であり、髪はまげを結っている。そして、目が大きく眼光はすべてをいぬくようにするどい。こんな威厳ある人間、おれは見たことがなかった。
この上様は本当に死ぬのか?おれはこう思った。
「は。拙者、山田太郎左衛門信勝と申します。上様に御目通りねがい恐悦至極。」
「カッカッ。そう固くなるな。ところでお主、聞けば妙な出で立ちだったと聞く。お主は何者じゃ?」
こう、きたか…未来からきました。なんて言えない。言った瞬間、痴れもの扱いされるだけだ。ならば…
「これは。南蛮人にも動じなかったと聞く上様らしからぬご発言。」
義輝公の眉毛がピクッと動き、刀を抜いた。
おれはびびったが、不思議と心はすみわたっていた。
「ほう。動じぬか。」
義輝公は楽しそうに笑っている。
「は。恐れながらこれほどのことでこの太郎左、動じませぬ。」
「気に入ったわ。わが小姓としよう。よいな?太郎左。」
「ははっ」
おれはこうして義輝公ー上様に仕えることになったんだ。