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乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第2章 戦国乱世!!
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第18話 備えあれば憂いなし

つくづく空気の読めんおっさんだ。おれは、はあとため息をついた。


「殿。いかがいたしました?」


右近だ。右近は厳密にいえばおれの家臣じゃないのに、おれのことを殿とよんでくれる。


「弾正からの手紙だ。」


おれは手紙を右近にみせる。そこには

あいさつはどうしたとでかでかかかれている。


「いかれてなかったのですか?」


「ああ」


「たしか、殿が城主となってから2ヶ月たちましたよね?」


「ああ。」


おれは、むすっとした顔をする。この2ヶ月おれは皆と三段打ちの教練をやったり、城下を視察したり充実した城主ライフを送っていたのだ。それをなにが悲しくて、あんなんの顔を拝みにいかないといけないのか。


「右近、佑光に三段打ち、おれはいないがよろしくと言ってくれ。」


「御意。」


平伏した右近をみながらおれは


「じゃあ、いってくる。」


と呟き、弾正の居城、信貴山に向かった。



「隅州殿、遅かったではないかぁ?あーん?」


弾正は、おれをみるなり開口一番こういい放った。


「は。高槻の政務が忙しく、なかなか弾正殿へのご挨拶が遅れました。平にご容赦を。」


おれは、もう早くおわってほしくて、平伏する。


「まあ、そういう堅い挨拶は抜きにして、茶室へ参られい。」


「はっ」


ずかずかと茶室に向かう弾正の後ろについていく。


曲がり角の手前、弾正は小姓からなにかをもらっている。なにしてやがんだ?おれは怪訝に思いながらも歩いていると、弾正がこちらに向かってきた。


んだ?茶室はむこうだろ?ぼけたか?


そう思いフッと笑ったおれの顔に


ビシャッ


水がかかった。おれの笑顔が顔に貼り付く。弾正の手を見るとひょうたんがあった。


おそらく、いや絶対、弾正はこれをやりたかったのだ。


「いい気味だな。」


「て、てんめえ…」


おれは拳を震わせるが、弾正のぼけはお構いなしに


「では、茶室へ参ろうか。ハッハッハー!」


「まてや、コラ!」


おれは、跳び跳ねながら弾正の後をおった。


茶室てのは、せまい。弾正の人間失格野郎は、カシャカシャと微笑みながら茶を点てている。


「平蜘蛛使えよ。」


弾正所蔵の茶器で最も価値があるといわれる平蜘蛛の名をだした。


すると、弾正はフッと微笑み、


「あいにくだが、平蜘蛛はそう使わないのだ。」


なんて、すましてやがる。が、一枚この面の皮をはげば、そこには、九十九茄子を踏み潰され、絶叫したあわれな爺の顔があるのだ。


「どうぞ。」


弾正からだされた茶をおれは一息で飲む。


「うまいな。毒もねえみたいだしな」


「はん、崇高なる数奇の世界に毒などいれるかよ。」


「いけすかねえやつだ。」


おれがぷいと顔を横に向けると、弾正が笑った。


「なにがおかしい。」


「いや、そなたのようなのが、城主だとはな。」


「おまえより向いてるから。」


「黙れ。」


「いやだね。」


なんかもう小学生みたいな口論になった。


「で、弾正。そろそろ帰らせてもらっていいか?」


そういったおれへ、弾正はなんの前触れもなく


バチン


ビンタしやがった。


「なんだよ!?てめえ!」


「じゃあな」


そういうくそ弾正におれは思いっきり、大馬鹿野郎と叫び、高槻に帰った。


【元亀元年 細川兵部大輔藤孝】


美しい。わしは2度目となる越前一乗谷をみて、思わず、ため息をもらした。


初めてきたときは、義輝公がご自害遊ばされたときであったな。


此度の目的は、上様の上洛命令に従わない朝倉への通告だ。


すなわち、上洛せねば軍を出す、と。


上様による討伐命令がでれば朝倉は終わる。そしたら、この美しい一乗谷が…。


いや、わしは顔をふる。


そうならぬためにわしはやって来たのだ。


わしは朝倉館へ入っていった。


「左衛門督殿。お目通り願い恭悦至極。さっそくですが、ご上洛し上様にご拝謁してくださいませ。」


上座の左衛門督義景殿は、目を閉じている。


しばらくたってから、筆頭家老の宮内少輔景鏡が


「ええい!織田の傀儡にすぎぬ今の公方に名門の朝倉が頭をさげるなど言語道断!」


それはちがうとわしが言おうとしたとき、左衛門督の側に控えていた奏者の、鳥居兵庫助景近が


「景鏡殿。わが朝倉の品位を貶める発言早めなされ。」


「なにい!わしは筆頭家老だぞ!」


景鏡は、立ち上がり景近へ向かってギャーギャー騒いでいる。


「見苦しいぞ、景鏡。黙れ。」


主君の義景に一喝され景鏡は引き下がっている。


「兵部殿。わが朝倉は上洛せぬ。」


「何故でございますか。朝倉は越前一国60万石。

たいして、幕府は尾、濃、三、勢、江、城、和、摂、泉、若、丹、河合計11ヶ国、350万石を保有しており戦っても勝てないかと。」


「さにあらず。」


「では、なぜ?」


「織田上総介信長よ。」


わしは、歯噛みをした。家格を言っているのか?


「このさい、家格などへのこだわりはお捨てなされ。」


「いや、その政策よ。」


…政策か…


「上総介は、すべての既得権益を破壊するおつもりだな。しかし、しかしだ、わが越前朝倉は5代続き、あらゆる既得権益があり申す。なれどここ越前の民は、その権益のもとで生活しておるのです。それを破壊するなどわしには到底。」


「しかし、天下のために!」


わしは身を前に乗り出す。


「天下などわが朝倉は望まぬ。ただひたすらに望むのは、越前の民の安寧。」


左衛門督は立ち上がり、わしを睨んだ。


「帰れ。次会うときは戦場ぞ。」


わしは、京へ戻り、上様に報告した。


【元亀元年 山田大隅守信勝】


使い番により、朝倉討伐のため信長を総大将とする軍への参陣へを義昭公にめいじられた。


…金ヶ崎だよなあ。


正史では、越前に出兵した、織田徳川連合軍を突如、浅井長政が急襲。信長は窮地におちいった。


「ご使者殿。池田筑州殿はご出陣されますか?」


「いいえ。三好への抑えのため出陣いたしませぬ。」


ふむ。戦国史上最も有名な撤退戦、金ヶ崎の退き口は池田筑後守、木下藤吉郎、明智十兵衛の三人で行われる。うち一人が参戦しないとおうことは、おこらないんじゃないか?


「あいわかった。すぐに準備いたしまする。」


使者が下がっていくのをみたおれはすぐに手紙をかき、今回は居留守役の長盛に渡してこう言った。


「いいか。長盛。なんか畿内であったらこの手紙をわたしてくれ。」


「はあ。」


長盛は怪訝な顔をしている。


この手紙には、浅井備前守が裏切った故、すぐにお戻りになるよう書いてある。


…備えあれば憂いなしだからな。


おれは、兜をかぶり、顎紐を結んだ。

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