第17話 荒木信濃守村重
高槻城主ということは、自分の軍団をもつということだ。5万石だから、約千2百の軍勢を率いれる。なら、兵器を集めなければならない。
北摂津は、正史でいえば池田家家臣である荒木村重が統一する。そうなったらおれは滅ぼされるかその家臣になるかだ。
別に家臣になっても構わないが、村重はその後、謀叛おこし敗北。一族朗党皆殺しになる。つまりおれはどちらにしても死ぬ。
だから、おれは村重をたおさなければならない。
おれは、火縄銃を集め、三段打ちを習得させるつもりだ。
今、信長は三段打ちをやっていなかった、ていうのが、定説になりつつあるけど、ならおれがやればいいだけの話だ。
おれは長盛に言った。すると長盛はひっくり反った。
「おい!おきろ!いいか!?長盛、堺の今井さんのとこいって火縄銃をもらってこい!」
「…あわわ、殿が一城の主」
おれはひっくり返ってる長盛の腹を盛大に踏みつけてやった。
「あ、そうだ!殿!」
「ん?」
「…花押はどういたします?」
そうか。花押だ。花押とは、書類の決裁なんかにつかうサインみたいなものだ。舞鶴代官のときは足利の花押だったが、これからは自分の花押をつかわないといけない。
「あー。もう一でいいや。」
「一ですか?」
「そう。一の一文字。いいねえ。はい、決定。」
「はあ」
長盛の気の抜けた返事を聞くと、すぐにおれは佑光のもとへといき、この三段打ちのことを話した。佑光はさすがだ。誉めたくねえが。誉めたくねえが。あいつは頭いい。すぐに理解してくれた。
…慶次は、まあ時間かかったけどね。
「信勝様?この騒ぎはいったい?」
あ、お犬様だ。そういえば、おれが高槻城主になったことを言ってなかったんだ。
「ああ、上様のご命令で高槻城主になったんだ。」
絶対、お犬様喜んでくれるわ。と思っていたが、お犬様はうつむいている。
「おーい。お犬様?」
「そのようなことは、真っ先に妻であるわたくしに仰ってくださいね?」
兄譲りの眼光でおれは睨まれた。
「は、はい~」
おれはやっとの思いで返事をする。
なんなんだ!
◇
信長は、座とか関をなくすくせに規律にうるさい。
なんか、主命を帯びた場合は京都所司代に報告するように言われている。おれは、その後、おれの与力となった高山右近、摂津の大名の、茨木左衛門尉、池田筑後守、隣接する大和のくそ無能ぼけ弾正にも挨拶せねばならない。
「ほう?山田殿は城主にござるか。」
京都所司代のうちの一人、秀吉に挨拶する。
「ええ。腕が鳴ります。」
「これは、まことに祝着ですなあ!」
京都所司代として、豪族の対応をしているからであろうか。武家言葉が身に付いている。
「祝いの舞を披露いたそう!」
秀吉はそういうと、ぴょんぴょん踊り始めた。
おれは思わず笑った。さすが、秀吉。人たらしといわれるだけのことはあるなあ。
◇
「これは、隅州殿。」
次におれは、所司代の光秀に挨拶をしている。あ、ちなみに隅州っていうのは、大隅守のこと。おれはこう呼ばれるみたい。
「高槻城主の命をうけましたので、その報告を。」
「クックック…」
低く笑う光秀は、不気味だ。
だけど、この男の仕事は公家への対応。ここ京では、悪評を聞かない。それは光秀は礼儀を身につけているからだろう。
「では、拙者はこれで…」
「そういえば、高槻は、弾正の隣ですねえ。」
…チクショー!嫌なこと思い出させんなよ!
◇
高槻に入ったおれは、おれの組下に入る、高山右近助重友と、その父、高山飛騨守友照と面会した。
右近は、挨拶をした後はじっと目を閉じ首にぶらさげてある、銀の十字架をにぎっている。
キリストか…
切支丹。主にヘアースタイルでおれたちに大人気なザビエルが広めたものだ。
「右近よ。切支丹ですか?」
「ええ。」
「たしか、神のもとでは 皆平等でしたかな?」
そういうと、右近は、肩を震わせて泣き出した。おれは何事かと仰天してしまった。
「まさか、ご城主様がキリスト教を存じていたとは…」
…なんて涙脆い男なんだ。お涙頂戴のドキュメンタリーじゃあないんだぞ。おれは思わず苦笑いを浮かべた。
「殿!殿!」
「どうしたぁ!長盛!」
「火縄銃2百丁にございます!」
めっちゃあるじゃねえか。おれは長盛の肩をつかむ。
「すげえぞ!」
「ええ。百丁のみしか、譲ってもらえませんでしたが、呂宋殿からお代はもらえといってもう百丁買いました!」
ナイス外道!
◇
今日のメインイベント。おれが倒さないといけない相手、荒木信濃守村重との面会。
おれは、池田筑後守への挨拶を終えるとその足で村重の家へといった。
「これは、隅州殿。」
おれは客間に通された。
「いやあ、わざわざすいませんねえ。信州殿。」
「いえいえ。」
そう言って、村重は顔を振った。
村重は小柄だ。身長はおそらく150cn代後半。ひげははえておらず、唇はつやつやしている。あんだか、子供のような顔をしている。
「ところで、なんでも九十九茄子を踏み潰されたとか。」
「え?まあ、へへ。」
そうだった。おれって冷静に考えると、重要文化財を破壊したDQNじゃねえか。
「まあ、若気のいたりってやつっす。」
「ハハハ、面白いことを言う。」
村重は、楽しそうに笑った。
「そして、隅州殿。何故、拙者のもとなど?」
「え?いや、世にも高名な池田家の筆頭家老である信州殿にお会いしたく。」
「いや、お世辞でもうれしゅうございます。しかし」
村重はその童顔をおれに向けた。
「拙者は、一国一城の主になりたいですなぁ。」
村重は口元を歪ませている。
…へっ。本性を表したかよ。この欲深が。
おれは、思いっきり笑った。笑ってやった。
おれは、その後、世間話を交わし、高槻城へと戻った。おれはやはり生きるためにあの欲深を倒さなければならない。
「よっしゃあー!てめえら!三段打ちの練習すっぞ!」
おれは大声をあげ、佑光、慶次、右近、長盛と共に兵に三段打ちの教練をした。
弾正への挨拶なんて、しなくてもいい。おれはそう思う。うん、絶対。




