第12話 織田上総介信長
戦国の世にタイムスリップしてから2年たった。この間におこったことを言えば、初め舞鶴の交易ルートは舞鶴ー敦賀だけだったのが、舞鶴ー直江津、舞鶴ー松江がはじまり、呂宋がこれら物価や物の流れを把握し巨万の富を築いた。もはや、本店を凌ぐ、と言われている。
そうなると、物資が舞鶴に集まる。これをさばくには、慶次には無理はもちろん無理だからおれ、佑光がさばいていたが、次第に難しくなってくる。そこでおれのアドバンテージの発動。
おれは、近江にいって、ひとりの一向衆をひきいれた。名を増田仁衛門長盛。そう、史実、いや正史といったほうが正しいか。その正史における
豊臣五奉行だ。こういうだれが優秀かを正史の経歴で判断できる。これだけでもおれはチートだわ。
この男を勧誘するとき、おれはこう言った。
「舞鶴の物資の流通、すべて貴殿に一任す。」
こう言ったら、長盛はおどろいてたね。で、すぐ目を輝かせて
「はい!拙者でよければ」
て、すぐ長盛を召し抱えた。おれのはじめての家臣だったりする。
長盛の手腕はさすがだった。舞鶴の物資を滞りなく分配。これによって交易は活発化。商船の往来も増え、日本助ももうかっている。
義昭公は、完成した小浜城で書類の決裁。それをほかの幕臣衆が助けるという構図。
んで、戦もない状況だったが、ついに一変するときがきた。
織田上総介信長、美濃制圧。
おれはこの報告をうけると、すぐ登城した。
「上様、織田上総殿に上洛を願うべきかと。」
「ふむ。しかし織田上総は上洛できるのか?」
義昭公の懸念もわかる。京への通り道の伊勢の北畠、南近江の六角は両家とも三好方だ。
「織田上総殿にかかれば瞬く間に滅ぼせまする。」
「その心は?」
「はっ。淡路公方と上様ではもはやどちらが足利の正当かは明白。その上様の要請をうけての上洛とあれば、これに馳せ参じる武士はひきもきりません。」
「なるほどのう。」
義昭公は目を閉じ、ふむ、ふむと頷いている。
「織田上総は天下人にふさわしいのか?」
「それは上様が確かめなさるものかと。しかし拙者はそう思います。」
そうだった。義昭公の目標は、天下人にふさわしい人のために禅譲。そのための将軍任官を目指しているのだ。
「あいわかった。十兵衛と太郎左。織田上総介に上洛要請を行え。」
「はっ。」
まず会うべきは、織田家の奏者、村井長門守貞勝だ。
【1567年 6月2日。織田上総介信長】
ここが、岐阜城。蝮、道三がわれに託した城。
たしかにここからの眺めは絶景だ。感動的でもある。だが同時に無価値だ。
今でもはっきり思い出す。われが愚かなせいで死なせてしまった平手の爺の最期の言葉。
若、若ならば天下をとること叶いまする…
そうだ。われは天下をとらねばならない。その前では美濃尾張も、わが命もなんの意味ももたない。
「殿」
「長門か…なんだ?」
「足利義昭公のご使者が参っております。」
「会おう。通せ。今すぐ。」
「はっ。」
「それと長門。いつでも出兵できるよう、権六、ネズミ、滝川、佐久間、五郎左につたえておけ」
「御意 。」
…天下への道がひらけたか
しかしまだ天下ではない。そう、天下をとる前ではあらゆる行動も無価値だ。




