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アイ キャン フライ


「おっそい! イツキ、遅刻よ!」

 約束の時間にコードBの本部に来たイツキに浴びせられたのは、いつものジュリの怒鳴り声だった。

(あれ、遅刻か!?)

 イツキが自分の腕時計を確認すると、ジャスト一時間前。

「遅刻なんてしてねーよ」

「5秒の遅刻よ!」

「・・・・・・5秒ね」

「あ、あんたねー、悪魔と戦うには1分1秒が命取りに―――」

「気にするなイツキ。ちゃんと時間通りに来てくれて感謝する」

 ジュリの言葉にかぶせるようにして、隊長は言った。

「正直、気持ちが変わって来ないのではないかとも心配したが・・・・・・そんな心配はいらなかったようだな」

 そういうと隊長はフフっと笑って、銀色の指輪を取り出した。

「イツキ、これを右手の薬指に付けろ」

「これは?」

「ビコームを使うのに必要な魔道具だ」

 隊長に手渡された指輪はどこにでもありそうな、普通の指輪だった。イツキは言われた通りに右手の薬指に付けた。

「・・・・・・? なんにもならないんですけど・・・」

「ああ、そうだ、ビコームをするには―――」

「隊長! 大変です!」

 隊長の言葉をさえぎって、リサが大声を上げた。

「どうしたっ!?」

「予定の時間まで結界が持ちそうにありません!」

「なに!? あとどのくらいだ?」

「持ってあと20分ほどです!」

「そうか・・・・・・」

 リサの言葉を聞いた隊長は苦い顔をすると、

「悪いなイツキ、説明している時間がなくなった。ジュリ、今すぐイツキをビコームをしろ」

「! 了解!」

 ジュリはイツキの前に行くと、イツキと同じ指輪をすでにつけていた左手の手の平をイツキに向けて言った。

「ほら、指輪をつけた手を合わせて」

「ん? こうか?」

 ジュリに言われた通りにイツキは自分の右手をジュリに合わせた。すると、イツキとジュリの触れている手からポワッと青白い光が生まれた。

「うわっ、なんだこれ!?」

「落ち着いて! 時間がないわ。いい? 頭の中を真っ白にして、余計な事は考えない!」

「わ、わかった」

 ゆらゆらと落ち着きなく動いていた青白い光は、やがて、きれいな円状の光になった。

「そう、いい感じよ。そしたらこう言うの。――――。いくわよ?」

「あ、ああ」

 大きな息を吸い込んで、イツキはジュリと声を合わせた。

「「ビコームワン!!」」

 


 その呪文を唱えると、すさまじい光が部屋をおおった。あまりのまぶしさに、イツキは目を閉じた。しばらくして目を開けてみると、

「ジュリ!?」

 ジュリがイツキの目の前で倒れていた。

『大丈夫よ』

「・・・・・・え?」

 イツキの頭に、直接、声が響いた。その声は、

「・・・・・・ジュリ、か?」

『そうよ』

 まぎれもないジュリの声。ジンがまるで当たり前という風に、倒れるジュリを平然と医務室に運んでいく。

「上手くいったようだな」

『ええ』

 隊長が、イツキの頭から聞こえてくる声と会話をしている。

「あの、ジュリは大丈夫なんですか?」

「ああ、今ジュリのたましいはキミの中にいる。その為、今のジュリの体は仮死状態だが――」

『ちょっと、今そんなこと説明している場合じゃないと思うけど?』

 姿の見えないジュリの声を聞いたリサが、ジュリに賛同した。

「隊長、もう結界は10分も持ちません!」

「ああ。イツキ、説明はあとだ。これを着ろ」

「これって・・・・・・!」

 隊長がイツキに渡した物。それは、コードBのトレードマークでもあるベージュ色のマント。

「これにはわずかだが魔力が込められている。キミを守ってくれるだろう」

 ベージュ色のマントを頭からかぶると、イツキの体は全身ベージュ色の布に覆われた。ガラスに映るイツキの体は目しか見えない。

(なんだか本当にコードBになった気分だ・・・・・・。いや、今日だけはコードBの一員だけど、夢みたいだ)

 ガラスに映る自分を、じーっと見つめるイツキに見かねて、隊長は言い放った。

「時間がない。ジュリ、頼んだぞ」

『ええ、わかってるわ! 行くわよ、イツキ!』

「ん? ああ・・・・・・って! おい、ちょっ・・・・・・! なんだなんだぁ!?」

 ジュリの声がひときわ大きくイツキの頭に響いた時だった。イツキの体が、イツキの意思とは関係なく勝手に動いた。

 イツキの手は、勝手に部屋の窓を開けたかと思うと、いきなり身を乗り出した。

(いやいやいや、ちょっと待て! ここ――――――)

「二階なんですけどぉぉぉぉおおおおおお!?」

 終わった。そう思ったイツキだったが、その思いは一瞬にして消え去った。

 イツキはコードBの本部二階から飛び降りると、何事もなかったかのように着地。そして、目の前のへいに飛びのぼると、幅が10センチほどの塀の上を平然とダッシュした。

 もちろん、イツキの意思で走っているわけではない。

『フフ、驚いた?』

 イツキの頭に、ジュリの声が響いた。

「驚いたなんてもんじゃねーよ! こんなこと(二階から飛び降りる)するなら最初から言ってくれ!」 

『あーもう、うるさいわね、イツキは』

「こっちは死ぬかと思ったんだぞ!?」

『はい、はい』

「はいはいってなんだよ!」

『なによ! 普通に返事しただけじゃない!』

「あのな――――――!」



 そんな二人のやり取りをコードBの本部から見ていた隊長は、ひたいに手を当てながらため息を付いた。

「もっと緊張感をもてんのかあの二人は・・・・・・」

 衛星カメラをハッキングしたジンは、隣でため息をつく隊長を見てひとしきり笑うと言った。

「でも隊長も人が悪いよなー。イツキにあの事を言わなかったんだから」

「む・・・・・・」

 ジンの意味深な言葉を聞いた隊長ははぐらかすように目をそらした。そんな隊長に変わって、ジュリが聞いてきた。

「イツキさんの魔力のことですか?」

「ああ。イツキが悪魔と対じし、ジュリの刀を手にした時。あの時、コードBの中で一番の魔力を持つジュリより、圧倒的に高い魔力の数値が出た」

 そんなジンの言葉を聞いた隊長は、あっさりと言った。

「魔力を測る機械が壊れていただけかもしれんだろ」

「ハハ! 冗談でしょ隊長? この機械が壊れたなんて、この百年で一回もないんだから。機械の故障なんて、信じられませんよ」

「・・・・・・私にも、信じられんさ」

「隊長・・・・・・」



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