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コードB


「ん~、やっぱ無謀だったか? いやいや、今日だけはしかたなかった・・・・・・よな?」

 前にここを通った時よりも草木は伸びて、イツキの歩く足をさえぎっていた。

 少し歩いただけでもうだいぶ汚れてしまった洋服を見て、ジュリの激怒した顔が頭を

よぎる。

「でも、ここまできたら引き返すわけには―――ん?」

 ブツブツと一人で喋っていたイツキは、数十メートル先から聞こえる声に眉をしかめ

た。それは、猛獣のような叫び声。それと同時に、かろうじて女性のものだろうと分か

る、かなりくぐもった声。

(ヤバイ、ここ、熊がでるのか!? ってか、女の人は大丈夫なのか!?)

 家に行くには、声のする方を通らないといけない。かなり行きたくなかったが、家ま

でもうすぐそこだった。イツキは慎重に声のする方へと進むと、木に隠れて何が起きて

いるのか見た。そこには・・・・・・

(あっ!! あれはっ!!)

 かろうじて声に出さなかったのは軌跡だろう。イツキの目の前には、ベージュ色のマ

ントに身を包んだ一人の人がいた。唯一の目撃情報が、ベージュ色のマントを着ている

という事しか分からない、全てが謎の小さい頃からイツキが憧れる盗賊団コードBだ。

 コードBを見たイツキは長年探し続けてきたUFОを目撃したのと同じぐらいの興奮

状態だった。

(間違いない! スゲー! 本物だ! けど・・・・・・)

 せっかくのイツキの喜びも、コードBが対じしている相手をみて半減してしまう。

 初め、イツキが熊かと思ったその声は゛それ´のものだった。熊ではなかった゛それ

´は、他の猛獣とも違う。かといって、明らかに人ではない。

 二本足で立つ゛それ´は、手足が4本で指の先が長くとがっている。人間の2、3倍

はある大きな体に、異常に伸びた首。顔の半分もある大きな口からは猛獣のような牙が

むき出しになっていて、まさしく化け物だった。

(な、なんだよあれ・・・・・・気持ち悪ぃ・・・・・・)

 まるで、ゲームに出てくるゾンビが変身して強くなったかのようなものを目の当たり

にし、全く現実にいる気がしない。

 だが、化け物の体にはいたる所に傷があり、そこから黒い体液のようなものが流れ出

していた。よく見ると、化け物は重症といった感じだ。対するコードBは無傷で、手に

は見たこともない刀を持っていた。

 コードBは、光る刃を化け物に向けると、

「さあ、観念しなさい。もう終わりよ!」

 そう言って、コードBが一歩前に進んだ。

「イヤダ、イヤダ、ジニダグダイ! ジニダグダァァァアアアアアアイイ――!!」

 瀕死の化け物が最後の力を振り絞って、叫び声を上げたその時だった。

 ドサッ――――

(ヤバッ・・・・・・!)

 あまりの轟音にイツキは耳をふさごうとして、持っていたケーキの箱を落としてしま

った。箱が地面を叩きつける小さな音をたてた。たったそれだけのことなのだが、イツ

キは世界が終わってしまったかのような気がした。

 瞬間、化け物の顔だけが、グルンっとイツキの方を向いて―――

(目・・・が・・・・・・あっ・・・た・・・・・・?)

「・・・・・・・・・・・・ぇ?」

 コードBは、化け物の視線を追いイツキを見つけると、信じられない物を見たかのよ

うに固まった。こんな所に人がいるなんて思わなかったのだろう。

 化け物は、目を細めてニヤ―っと不気味に口を大きくつりあげた。かと思うと、勢い

よくイツキに向かって突進してきた。そのあまりの速さに驚くのと同時に「逃げろ!」

と頭の中で思うのに、恐怖で足が動かない。

 ――――――オレ、死ぬのか?

 だんだんと、化け物の鋭い爪が近づいてくる。

 ――――――オレが死んだら、母さんとモモはどうなるんだろう・・・・・・。

 近づく化け物の動きが、なぜかスローモーションのように見える。

 ――――――ジュリは? どう思うんだろう・・・・・・『だからあんなところには行くな

って言ったのに!』なんて言いそうだ。

 化け物の爪が、目の前まで来た。もう避ける事は不可能な距離。と、その時だった。

「イツキ――――――――――――!!!!」

(・・・・・・え?)

 ――――――――ザシュッ!

 という音と共に、不思議な感覚のスローモーションが急にとけた。

 爪が、確かに切り裂く音がしたのに、なぜか痛くない。わけがわからず目を開けると

目の前には、イツキの代わりに倒れるコードBがいた。それよりも。

「い、今の声って・・・・・・ま・・・さか・・・・・・」

 倒れるコードBにかけより引き寄せると、震える右手で顔を覆うマントをおろした。

「う・・・そ・・・・・・だろ・・・・・・? ・・・・・・ジュリ、ジュリ!!」

 そこには4年間、見慣れたジュリの顔があった。イツキが声をかけると、ジュリの顔

がうっ、と苦痛にゆがんだ。

「ジュリ、ジュリ、大丈夫か!?」

 頭が真っ白になったイツキの言葉に返事もせず、ジュリは声を絞り出して言った。

「イ・・・・・・ツキ、にげ・・・・・・て・・・・・・」

「なに、言って・・・・・・!」

 見ると、ジュリの腹部からは大量の血が出ていた。それを見たイツキは息を呑んだ。

(なにも止血するものはない! このままだとジュリは・・・・・・)

 焦りながらも、最悪の考えを振り払い、

「お、お前をおいて逃げれるかよ!!」

 そう言って、今まさにイツキ達に飛び掛らんとばかりに、体を上下に揺らす化け物に

体を向けた。

「ば・・・・・・か、ハァ、ハァ、イツキ・・・・・・じゃ、む・・・・・・り」

(無理なのは分かってるさ!)

 だけど、あの動きの早い化け物から重症のジュリをおぶりながら逃げる事も不可能だ

と思った。どっちも無理なら、ジュリを置いて逃げるくらいならイツキは・・・・・・

「オレは、戦う!!」

 無理なのは分かってる。怖くないはずがない。戦うと言った。そう言ったはずのイツ

キの言葉が、足が、震える。

「ゲキョキョキョキョキキキキ」

 それを見て、あざ笑うかのように化け物は声を上げた。

「くっそ、笑ってんじゃねーよこの化け物!」

 かかんに化け物に向かって行ったイツキだったが、化け物のたったの一振りに、吹き

飛ばされた。

 ――――ボギッ

 という鈍い音と共に、イツキのわき腹に激痛が走った。

「ぐはっ! ぐぅ・・・・・・」

 あまりの痛みに、意識が遠のきそうになった。それでも歯を食いしばり、わき腹を押

さえて立ち上がろうとした。そんなイツキの目の前に、さっきまでジュリが持っていた

光る刀があった。だが、刀は光を失い包帯に巻かれただけの、ただのつかの部分が地面

に落ちていた。

 数メートル先で力なく横たわるジュリを見ると、ジュリの目は「逃げて」と言ってい

た。

 イツキは悔しかった。自分のせいで、自分をかばってジュリはケガを負った。それな

のに、なにも出来ない自分の不甲斐なさに、イツキは悔しかった。

 息を吸うだけで激痛が走る。痛い。信じられないぐらい痛い。でも、ジュリは・・・・・・

「・・・・・・もっと、イテーよな・・・・・・」

 そう呟くと、イツキは光を失った、ただのつかを握り締めた。その瞬間―――――

「うわっ! なんだ!」

 光を失ったはずの刀は、まるで主人が戻ったといわんばかりに光を取り戻した。沢山

の光が集まった刀は形を取り戻し、ジュリが持っていた時よりも、太く、長い刀になっ

た。

 それは、刀というより、もはや剣だった。

「う・・・・・・そ・・・・・・」

 ジュリはその光景を見て、驚愕の表情をしていた。

「どういう原理なんだ、これ。・・・・・・って、あれ?」

 光る剣を持ったイツキは、あることに気づいた。

(痛みが・・・・・・ない!!?)

 さっき、化け物に殴られた時に折れたはずのわき腹の痛みがなくなっていた。それに、

体が驚くほど軽い。

(マジで、どうなってんだ!? わけがわからない。でも・・・・・・)

 そんな事は今はどうでもよかった。イツキの持つ、光る剣を見た瞬間から、化け物の

さっきまでの余裕な態度は無くなっていた。剣がよほど怖いのか、その表情はどこかお

びえたようにも見える。イツキはそんな化け物をにらみつけると、

「10倍・・・・・・いや、100倍返しにしてやるよ!」

 ハッタリを言った。わけじゃなかった。体には、今までにないほどの力がみなぎり、

今ならなんでも出来そうな気がした。化け物をも簡単に倒せそうなほど。

「グッ・・・・・・グ、グギャギャギャ―――!」

 化け物は勢いよくイツキに向かう――――わけではなく、回れ右をすると、一目散に

逃げ出した。

「あ、こらテメ―――! 待ちやが―――――」

 イツキが逃げた化け物を追いかけようとしてそう叫んだ時、イツキの持っていた光の

剣が急にフッと消えた。

「――――――――れ?」

 その瞬間、イツキの視界は地面をとらえた。 

(あ・・・・・・れ・・・・・・? 体が・・・動か・・・・・・ねー)

 地面に倒れたイツキは、こぶしを握りしめる力すらなかった。

(ってか、ジュリ・・・・・・は? 早く、救急車・・・・・・呼ばない・・・・・・と・・・)

 突然、急激な睡魔がイツキを襲う。

(だめ・・・・・・だ! ジュ・・・リ・・・・・・救急・・・車・・・・・・よ・・・・・・ば・・・・・・)

 イツキはここで、意識を失った。

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