表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

百倍返し



 目の前には悪魔がいる。

「・・・・・・ジュリ?」

 だが、イツキの問いかけに、ジュリの反応はない。

「ゲキョキョキョキョ」

 ジュリの変わりに答えるのは、悪魔の不気味な声だけだ。しかも、指輪が割れた瞬間、イツキの持っていた剣が、一回り小さくなった。それがしめす事、すなわち・・・・・・

「・・・・・・まじかよ」

 今、この森に居るのは、イツキと悪魔の二人だけ。




 コードBの本部に、ジンの焦った声が響いた。

「隊長! ビコームが・・・・・・」

「ああ・・・・・・ビコームが解けた」

 険しい表情を浮かべる隊長に、リサが慌てて聞いた。

「そんな! じゃあ、イツキさんは・・・・・・!」

「おちつけ! 今、私も考えて―――」

「隊長!!」

 隊長の言葉をさえぎって叫んだのは、ジュリだった。だが、叫んだ声とはうらはらに、顔は青ざめ、息もあがり、立っているのがやっとの状態だった。これほどまでに、ビコームを使うという代償は大きい。

 だが、ジュリは自分の状態などおかまいなしに、

「私、行くわ。早く、マントを」

 顔中を汗でぬらしながら言った。

「ジュリ・・・・・・」

「ジュリさん・・・・・・」

「・・・・・・」

 心配そうにジュリを見つめるジンとリサに対し、隊長は考えている様子だ。

「早くしないと、イツキが・・・・・・イツキが死んじゃう!」

「む・・・・・・」

 ジュリの言葉に観念したかのように、隊長は

「リサ、マントをジュリにわたせ!」

「・・・・・・! はい!」

 そう言うしかなかった。ほかに方法が、ない。

「待ってて、イツキ・・・・・・今、行くから」

 マントをはおりながらジュリは心の中で叫ぶ。

 ―――だからお願い、死なないで!




「グキョキョキョ」

「くっそ!」

 悪魔がくりだす攻撃に、イツキは防戦一方だった。

 あまりにも早い悪魔の拳から出される一振りは、普通の人からしたら、それをくらってしまっただけで首から上が無くなってしまいそうだ。だが、イツキは魔術師が使う剣を持ち、魔法が込められたマントをはおっている。

 魔術師が悪魔退治に使う剣を持った時から、イツキは、普段のイツキからは考えられない程のパワーが体にみなぎっている。

 だが、

「なんだよコイツ! この前は、剣を見ただけで逃げたのに・・・・・・!」

 前に会った時、悪魔はイツキの持った剣を見ただけで逃げ出した。それなのに、今回は逃げるどころか攻撃してくる。それも強くなって。

「進化ってやつのせいか・・・・・・?」

 と、イツキが思ったその時だった。

「あ、れ・・・・・・?」

 ガクンっとイツキのひざが崩れ落ちた。やばい。と思い、剣を地面に突き刺した瞬間、光の剣はスッと音もなく消えてしまった。残ったのはつかの部分だけ。

 支えを無くしたイツキは、そのまま地面に手を着いた。

 立ち上がろうとしても、体に力が入らない。

「くっ・・・・・・!」

 どうにか顔を前に向けると、目の前には不気味な笑みを浮かべながらイツキを見下ろす悪魔が居た。

 はたから見ると、まるでイツキが悪魔に土下座でもしているようだった。

(くっそ、かっこわりぃな・・・・・・)

 そう思っても、力を込めても立ち上がる事さえ出来ない。

「グキャキャキャ!」

「ぐっ!」

 悪魔のひざ蹴りが、イツキの顔面をもろにとらえた。

 ドゴッ。という鈍い音を出して、イツキは吹き飛ばされる。数メートル後ろの木にぶつかり、イツキはその衝撃で一瞬、息ができなかった。

「ぐはっ、ごほっ」

 どうにか呼吸を整えようとするイツキのすぐそばに、悪魔がいる。

 ゾッとする間もなく、悪魔の拳が、今度はイツキのわき腹にめりこんだ。

「うっっ!」

 ボキッという嫌な音がした。その攻撃をくらい、数メートル吹き飛ばされたイツキは、今度は頭から木にぶつかった。

(あ・・・・・・やべ・・・・・・)

 頭からぶつかってしまったせいで、目の前がゆがんで見える。ゴホッとせき込めば、血が飛び散った。

 もうろうとする意識の中、悪魔を見た。その悪魔の顔は、

(・・・・・・笑ってる)

 悪魔は、イツキに近づき、蹴りをくりだした。それだけで、その蹴りをくらったイツキは吹き飛ばされる。

「・・・・・・っ!」

 もう声も出ない。それでも悪魔は殴り続ける。

 殺そうと思えば、すぐにでも殺せるはずなのに、悪魔はまるで楽しむかのようにイツキをいたぶり続ける。

(・・・・・・はっ、根性わりぃ・・・・・・)

 殴られ、頭を打ちすぎたイツキは、もうろうとする意識の中、ふと思う。

(てか、なんでこんな事になってるんだっけ・・・・・・?)

 悪魔の拳をくらい、地面に体を打ち付ける。

(なんで俺、こんなのと戦ってんだっけ・・・・・・)

 地面に倒れたまま、ふと目を開けると、目の前には魔術師が悪魔退治に使う剣の柄がある。

(ジュリ・・・・・・)

 そこにきて、イツキは自分をかばって悪魔に切りつけられたジュリを思い出す。そして、忘れられないリサの言葉が頭をよぎった。



『おそらく、彼女のキズは一生のこるでしょう』



(ああ・・・・・・そうだった・・・・・・)

 倒れたまま、イツキは手をのばし、剣の柄をにぎりしめた。にぎった瞬間、柄に大量の光が集まり、剣の姿を取り戻した。

「ゲキョ・・・・・・」

 悪魔は、その光景を驚きながら見ていた。しかし、どこか楽しそうに・・・・・・。

 そんな悪魔を見ながらイツキはどうにか立ち上がると言った。

「俺、まだ死ねねぇや・・・・・・。だってさ、まだお前がジュリに負わせた傷の百倍返し、してねーからな」

 イツキの体は震えていた。それは恐怖からくるものでもあったが、体が限界だと悲鳴をあげていた。魔力の力をかりてまでも、剣を持つ、イツキの腕がブルブルと震える。

 だけど、

「もーちょっと、もってくれよ・・・・・・俺の体!」

 イツキは逃げなかった。

「ゲキョキョキョキョ!」

「うおぉぉぉぉおおおおお!」

 これで最後とばかりに自分に向かってくる悪魔。その速さは並の人間には見えない。だが、魔術師の剣を持つ、今のイツキなら見える。

 集中を高め、自分の一撃のチャンスを待つ。

 イツキの持つ剣は、イツキが集中すればするほど、光が集まり剣の大きさが増していった。

 その大きさは、イツキの腕の長さから、今ではイツキの体ほどの大きさになっていた。

「うぁぁああああああああああああああ!」

「ゲキョ!」

 そのあまりの剣の大きさに、悪魔は一瞬ひるんだ。その一瞬。その一瞬を、イツキは逃さなかった。

 イツキは悪魔を、腹から真っ二つに切った。

「グギャ―――!」

 気味の悪い声を上げると、悪魔は黒い煙を上げながら燃え、後には灰だけが残った。

「やった・・・・・・か?」

 そう言った瞬間、イツキの持っていた剣はスッと光を失い、イツキはひざから崩れ落ちた。

 その時、

「イツキ――――!」

 聞きなれたジュリの声がイツキの耳に届いた。だが、それはいつもの彼女らしからぬ、心配そうな叫び声。

 いつもの彼女はもっと凛とした声に、自信をみなぎらせている。

「イツキ!!」

 それなのに、今は、まるで今にも泣き出してしまいそうな顔をしている。

 ジュリは地面に倒れていたイツキを抱き起こした。イツキは顔から体から、色々な所から血をながして、意識ももうろうとしていた。

「イツキ! しっかりして!」

「・・・・・・ジュリ」

 ジュリに支えながら、イツキは声を絞り出した。 

「ジュリ・・・・・・百倍返し・・・・・・した・・・・・・ぜ」

「イツキ・・・・・・! ・・・・・・バカ! バカ!」

 ジュリが泣いていたような気がしたけど、それを確かめる前に、イツキは意識を失った。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ