少年の目覚め
最初に目に入ったのは、真っ白な天井だった。
「う・・・・ん・・・・ここは?・・・」
護は寝たまま首を横に向けてみる。入り口が右にあり、観音開きのドアになっている。起き上がって、正面を見ると台座がありそこに古門家の『神器』が飾られている。
そこで初めて、ここが自分家にある『聖堂』だと気づいた。
「いったいどうして聖堂の中に・・・・・僕はあのとき・・・・はっ!そうだ!あの女の子!」護は急いで聖堂のドアを開け放ち、おそらく家族がいるであろう居間に向かおうとしたのだが・・・・・「ぐふぅぅぅ!?」突如全身に襲いかかった衝撃波に聖堂の中まで押し戻された。
「な、なんだ?・・・」おそるおそる扉の陰から外をのぞく護。その目に映ったのは・・・・ 「よかった・・・・やっと起きたんだ・・・・・だめだってお兄ちゃん。まだダメージは残ってるんだから安静にしなきゃ。」
「美希?なんで涙浮かべながら兄を吹っ飛ばすんだよ?余計にダメージになるだろ!」 思わず怒鳴る護に美希は両眼に涙をの粒を浮かべながらも、睨めつけて反論した。
「私だってしたくないよ!でもお兄ちゃんが勝手に家から飛び出したあげく大けがして帰ってきたから・・・・父さんとじいちゃん直々に見張ってろってお達しなの。」 護は自分の手や足を眺める。目立った外傷などはない。というか全くと言っていいほどない。体もどこかが痛むというわけでもない。そして目を覚ましたら聖堂にいたということは・・・・・
「母さん。昨日一晩中癒しの呪文唱えてたんだよ。おかげで今日はくたびれちゃってずっと寝てる。けっこうお兄ちゃんのダメージひどかったみたい。私もお兄ちゃん捜しにいったとき川辺で倒れてるお兄ちゃんみて・・・・近づいたら息してないんだもん・・・どうなるかと思った・・・・」涙を流す美希を見て、本気で心配させたことを悟った護は聖堂のドアの陰から少し顔を出して言った。
「謝るときぐらい、聖堂から出てもいいだろ?」美希はうなずき涙を拭いた。護は聖堂のドアから今度こそ出て、美希の方に向かう。美希は涙を隠そうとしているのか目をつぶっている。
「ほんとにお兄ちゃんは・・・・防御術式使えないのに、そのくせいろいろなことに自分から頭つっこんで・・・・いままでは何とかなってたけど・・・今回はほんと危なかったんだから・・・きゃ!」美希は突然自分の体を襲った感触にとまどいの声を上げた。目を開けてみると護が両手で自分の体を抱いている。
「わわわわわわわ・・・何するのよ!」
「悪かった。心配させて・・・・誓うよ、もう2度と美希に心配はかけない。今回で相棒がいないとどんなに危険か身にしみて感じたから。」護は美希の方をまっすぐ見つめた。「ごめん・・・・・」聖堂の庭を風が駆け抜け、庭の桜の花が宙を舞う。
「いいよ・・・・でも約束して、戦うときは相棒と一緒に行動することを。」美希の言葉に護はうなずく。「ああ約束する。僕の魂に刻む。2度と相棒なしで挑まない。」美希はふっとほほえむと護の手を振り払った。
「いやあ・・・・よかった、許してもらえて・・・・・ていうか我ながら恥ずかしこと言っちゃったな・・・・・ってあれ?美希どうしたの?」目の前で真っ赤になりながら
うつむく美希に心配そうに近づく護に、美希の怒りが爆発する。
「いくら兄姉だからといって・・・・年頃の女の子にむやみに抱きつくな!」美希の剣幕に押されて、少しずつ後ろに引く護をにらめつけた美希は空中に手をのばす「きたれ『天狗のうちわ』!」美希の叫びとともにどこからともなく風に運ばれてきたかのように真っ赤な羽毛のうちわが飛んできて、美希の手に収まる。
「次同じことをしたら、これで吹き飛ばすよ!」どうやら美希の女のプライドをひどく傷ずつけてしまったようなので、護はおとなしく聖堂の中に戻ることにした。昔は問題や悩みがあるとすぐに泣き出す美希をいつもこんな感じで慰めていたが、さすがに美希も
今年で中学2年生、恥じらいを覚える年頃の少女にさすがにまずかったと反省する護だった。
「ところでお兄ちゃん。お兄ちゃんが倒れてることを伝えてくれたあの子は誰なの?」
ドアを開けて中に入ろうとしていた護はグルンとすごい勢いで首を回して美希の方に向き直る。
「その子って・・・・金髪碧眼の外国人少女?」護に勢いよく問いかけられ若干引きながらも美希はうなずいた。「その子。今居間で父さんとじいちゃんから事情を聞かれてるよ。本人はお兄ちゃんが起きてから、すべて話すと言ってたけど。」
「あのさ・・・・」護は深い深いため息をつく。「それなら、俺が起きたこと、祖父ちゃんや父さんに報告しなきゃいけないんじゃないの?」
「・・・・・」「・・・・・」「・・・・・・ごめん。かっかしすぎて忘れてた。いま呼んでくるね!」明らかに赤面しながら照れ隠しなのか、語尾をわざと大きくし、
走り去っていく美希。その後ろ姿をみながら
(ああいうところは昔と変わってないよな・・・・)と昔に思いをはせる護。この家は、
家というより神社、屋敷と形容した方が正しい規模を持っているので、美希が祖父たちを連れてくるのには少し時間がかかる。
その間、おとなしく『聖堂』の中で待っていようと思った護だったのだが、
「あれ?・・・・・良かった回復したんだ!」背後から聞こえた、聞き覚えのある声に
思わずビックと全身を硬直させてしまった。
「あの・・・・大丈夫?・・・・もしかしてまだダメージが?」恐る恐る後ろを振り返る護。その眼に映るのは、金髪ナイスバディの外国人美少女・・・・つまり
護が死にかけになりながらも守った少女『クリス・エバーフレイヤ』である。
「いやいやいや、大丈夫だよ!全然問題ないから!・・・・って心配なのはわかったから、できれば勝手に人の体あちこち触らないでもらえるかな!」女の子の手でまさぐられて
真っ赤になっている護に気づき、ようやく手を離すクリス。
「でさ・・・・なんでこんなところに?祖父ちゃんや父さんと話していたんじゃないの?」
「う~ん・・・・貴方が起きてから話すと言い張っていたら『まあしかたないからやつが起きるまで庭でも散歩したらどうだ』と言われたので、その通り庭を散策させてもらってたの。」
どうやら、あの頑固者の祖父にこう言わせたほどだから、彼女はかなり意地を張っていたらしい。おそらくこの後に待ち受けるであろう『説教と質問』という拷問タイムを想像して思わず身を震わせる護。
「あの・・・やっぱりダメージがあるんじゃ?」心配そうに見てくるクリスに、
(どちらかといえば、精神的なダメージがありまくりで死んじゃいそうだよ・・・)
と内申愚痴る護だったが、いまは、それどころではない。
「あのさ・・・・妹の話や君の話を総合すると、じいちゃんや父さんの前で、僕が起きてから話すって言ったてことだけど・・・どうして?」
「あなたしか見てなかったから。」「なにをさ?」「私を追ってきた『深き者ども』よ。」
あの時、川から次々と現れた異形の怪物。カエル人間としか呼べないような外見をしているやつらは水を操る力を使って護に重傷を負わせた。
「あなたの戦いぶりを見る限り、あなたたちの一族も、私達がいる『裏側』の世界に関与していると思うけど、それでも私たちの存在は異質すぎるの。だから貴方の証言がなければ信じてもらえそうにないと思って、あなたが起きるのを待ってたの。」
「う~ん・・・・色々話理解できないから、整理させて。まず『深き者ども』ってのについて説明してくれない?」
「『深き者ども』は、深淵の支配者にして、この地球の旧支配者とされる神『クテュルフ』に仕える人間の変異体たちのこと。」
次々と飛び出してくる大量の専門用語に余計に訳が分らなくなり、おもわず頭を抱える護。さらにそこへ追い打ちをかけるかのように、本日3度目のデンジャラスイベントが降りかかってきた。
「古門家次期当主ともあろう者が、おなごといちゃつくとは何事じゃ!」地面が揺れたと錯覚してしまいそうな怒声と共に護に向かって、黄金の光が飛んできた。
間一髪で、雷の矢を避け、地面に突き刺さった矢を見る護の顔が驚愕で染められる。
「これは・・・『建雷命の矢』?じゃあ、まさか・・・」驚きの目で
矢が放たれた方向を見つめる護。その先にいるのは・・・・
「さあて・・・・たっぷり仕置きをせねばならんの護。」一族最強の術者であり。前古門家当主でもある護の祖父『古門正造』は再び護に狙いを定める、「さあて・・・いつまでもつかの?」