第八章 佳奈
私は幼い頃から身体の弱い女の子でした。
小学生の時も入退院の繰り返しで、たぶん半分も学校に行けてなかったと思います。
小学校6年生の時からは、ずっと病院で過ごしました。そんな私だから、生まれてからずっと友達なんてできませんでした。恋なんてもちろんしたことがありません。
私は神様を恨みました。どうして私は他の人のように遊べないの?どうして私には友達がいないの?どうして私は・・・そんなことばかりを思って日々を過ごしていました。
本当なら高校生になっていた時期くらいから急に私の病状が悪化し始めました。もう満足に手足を動かすこともできなくなりました。母はそんな私を付きっ切り で看病してくれました。お風呂に入れない私の体を毎日拭いてくれました。ご飯を食べられない私にご飯を食べさせてくれました。私は母に対して申し訳ない気 持ちでいっぱいでした。神様は私だけでなく母にも苦行を強いているのでしょうか。だとしたら、私は神様を許すことができそうにありません。
そん な時、私の病気を治す手術がある、という話が舞い込みました。成功率が極めて少ないので、今までは話してなかったけど、このままでは私の命はもう長くない ので最後の賭けだということをお医者さんに言われました。母は悩んでいましたが、私は迷うことなくその手術を受けたいと申し出ました。助かりたいわけでは なく、死にたいと思っての申し出でした。これで母を楽にしてあげられることができる。私なんて生まれるべきではなかったのだから死んで当然だと、そう思っ ていたので成功率が少ないということに恐怖を感じることはありませんでした。
手術は2週間後に決まり、私の病室は、この病院で1番眺めのよい部 屋に移されました。部屋の窓からは、ここの公園と間の道、公園の奥に広がる綺麗な森が見えました。私にはその窓から見える景色は眩しすぎて、公園で遊ぶ子 供達を見ると、何故か涙が出てきました。外はこんなにも輝いているのに、どうして私の人生はこんなにも暗いんだろう。なんだかとても悲しくなりました。
そんな時、私はあなたを見つけました。いつも朝と夜、決まった時間にそこから見える道を通るあなたをいつも見ていました。一目惚れと言ってもよいのでしょ うか。恋というものをよく知らない私にはよくわかりませんが、その窓から見える景色で唯一楽しみなのがあなたでした。あなたはいつもブツブツ独り言を言い ながらつまらなそうな顔でその道を通っていきます。それがなんだかおかしくて、何て喋っているんだろう、なんて思いながらいつも見ていました。2週間、い つも同じ時間に通りすぎていくあなたを時計代わりにしていたぐらいです。
そして手術の日の夜、いつもなら通る時間にあなたは通らなかった。最後 にあなたを見て、「さようなら」って言って消えていこう、そう決めていたのに、最後の最後にあなたに会えなかった。麻酔を打たれて頭がぼんやりしていく最 中、私は「もう1度あなたに会いたい」と思ってしまったのです。
おかしな話ですよね。死のうと決めて受けた手術なのに、名前も知らない人にもう1度会いたいから死にたくなくなったなんて。だから、私は夢にあなたを、信二君を呼んでしまったのだと思います。
でも、大丈夫。もう信二君に会えましたから、会うだけじゃなく信二君と小さい時からずっとしたかったおにごっこや、かくれんぼや、キャッチボールや、他に もいろいろ、全部できたから。お友達にもなれたから。私にとっても信二君が初めてのお友達だったんだよ。信二くんといっぱい話せた今ならはっきり言えま す。この感情は恋だったんだって。
私は信二君のことが好きです。この想いを向こうに持っていけるなら、それで十分。これで心置きなく消えてゆけます。
信二君、本当にありがとう。




