第五章 信二
俺は親父のいない子供として、この世に生まれてきたんだ。お袋は周りに反対されながらも、俺のことを生んでくれた。俺をこの世界に導いてくれたんだ。
でもそのお袋も俺が3歳の時に交通事故で死んでしまった。だから、俺は親父の事もお袋の事も全然覚えてないんだ。好きかどうかなんて、正直わからないんだよ。でも、お袋には感謝はしている。この俺を、墜ろすことなく生んでくれた人だからな。
それからはずっと祖父母に育てられたんだ。
幼いながらにも自分の境遇をなんとはなしにわかっていた俺は、祖父母に迷惑をかけないようにと、それだけ考えながら生きていた。
後に祖父母から話しを聞くと、俺は全く泣かない手のかからない子だったらしい。そのかわり、笑うこともほとんどなかったそうだ。
そんな冷めた子だったから、小学生にあがっても友達らしい友達もできなかった。それは中学校にあがっても同じだった。同級生が騒いで遊んでいるのを冷めた目で遠くから見てた覚えがある。
そんな俺が中3の時、ついに祖父母も亡くなった。親戚が俺のことを引き取ると申し出てくれたが、俺は就職して自立することにした。母の知人が会社の社長を やってて、俺の境遇を知って雇ってくれたんだ。だから俺は今でも社長には頭が上がらない。社長は、若い輩が欲しかったからちょうどよかったんだと言ってい るがな。
だから俺は、生まれてから今まで、多少苦しい境遇にあれど、その度にいろいろな人に救われて、ここまで平穏な人生を送ってきたんだ。た だ、こんな境遇ゆえに、自分だけが楽しむのは申し訳ないような気がしてな、友達を作ったり、恋をしたりなんてことはどうしてもできなかった。いわゆる普通 の人生を送っているやつらは俺にとっては眩しすぎたんだ。
いつも、いつだってその様子を遠くから眺めているだけだった。でも、それでいいとも思っていた。
就職してからは、何も考えずただ働いて食べるだけの毎日だった。最初はこのまま死ぬまで1人で、それでひっそりと死んでいこう、なんてことを思っていたん だがな。最近になって、自分の人生に退屈さを感じてきたんだ。周りの人に支えられてやっと送っていける人生なのに、そんなことを思うのは罪なことだとは思 うのだが…
「以上、俺のつまらない20年間の人生でした。」
そう締めくくった。




